藤井 世界経済フォーラムを中心とするそうした活動は、SDGsの世界観と深く関係していきますね。

江田 SDGsのようなゴールを世界中で共有するのは、非常に建設的だと思います。ただ、ゴールへのたどり着き方はいろいろあっていいはずです。つまり、ゴールはグローバルで共有するけれども、たどり着き方はリージョナルやローカルで最適化されたものがあってもいい。

 ですから私たちは、リージョナルあるいはローカルにフィットした形で、ゴールに向けた具体的なアクションをきちんと起こしていけるように支援したり、それぞれの活動をコーディネートしたりしていきたいと思っています。

 例えば、国連総会が開かれるタイミングに合わせて、2018年9月にはニューヨークで「サステナブル・デベロップメント・インパクト・サミット」を開催し、気候変動対策とか海洋汚染防止、陸上生態系の保護、健康と福祉の推進などSDGsのゴールを目指して活動する世界100団体が一堂に会し、連携を深めました。これらの団体には政府機関、NGO、民間企業などがあり、互いのノウハウや技術をシェアしながら、ゴールの達成を目指していくことを確認しました。

藤井 日本でも大手企業のトップの方々はSDGsやサステナビリティーへの意識が高く、経営の中核的な問題だと捉える人が増えています。ただ、一つ下の階層である事業部門の責任者クラスになると、自分が手がけている事業とどうつながっているのかを捉え切れていない人も多いように感じます。

江田 藤井さんたちモニター デロイトのメンバーが執筆された『SDGsが問いかける経営の未来』を読ませていただいて、私もいろいろ腑に落ちたのですが、経済価値と社会価値を同時に実現することが競争優位の獲得や企業価値の向上につながる時代に、確実になってきていますね。重要なのは、そのことを実感できるようにさせてあげること。そうしないと事業部門の責任者にとっては「そんなこと言ったって」という話になる。私も経営者でしたから、そのことはよく分かります。

 実際に事業活動をしていれば、経済的な指標、財務的な指標というのは、四半期ごとに数字としてはっきり出てきますが、社会価値という非財務的なものは指標で測るのがなかなか難しい。そこを分かりやすくすることが必要ですね。

藤井 投資家サイドやNGOなどが非財務的な企業価値を測る指標を新たにつくる動きもありますが、事業とは関係のない活動を評価するような指標であったり、非常に煩雑な作業を伴う指標だったりすると、企業としてそれを取り入れるのは無理があります。

江田 おっしゃるとおりですね。世界経済フォーラムでもESG投資について議論しているメンバーが、企業がどういう指標に基づいて情報開示すべきかを検討しているのですが、とくにS(ソーシャル)のところが難しい。E(環境)については客観的な数値で測れる部分が多いのですが、Sはそれぞれの価値観に影響されるので、統一的な指標で測るのが難しいですね。

藤井 ただ、企業としては統一の評価基準や指標ができるのをいつまでも待っているわけにはいきません。客観的に測れることはできないとしても、社会から利益の質が問われ始めていることは間違いありません。

 例えば、大手商社の丸紅さんは、石炭火力発電の新規開発から撤退することを表明しました。個人的には英断だと思っています。この決断の結果が、財務諸表にすぐに表れるわけではありませんが、外部不経済性が高まることを続けていると、それは結局コストとして跳ね返ってきます。

 ですから、社会課題への反応を早めるという意識を企業内部で共有するだけでも、経営のあり方はかなり変わっていくと思います。