コンフリクト・フリーを宣言した
インテルの大義とリーダーシップ
江田 私がいた頃にインテルでは、コンフリクト・ミネラル(紛争鉱物)を一切使わずにマイクロプロセッサーを製造するという取り組みを始めました。電子機器メーカーとしては世界で初めての試みで、2009年にサプライヤーに対する調査を始めて、サプライチェーン全体でコンフリクト・フリー(紛争鉱物不使用)を実現できたのが2013年ですから、5年がかり。
前例がないので大変な活動でしたし、始めた頃は本当に実現できるかどうかも分かりませんでした。ただ、宣言してしまった以上、やらざるを得ない。
電子機器のサプライチェーンは、さまざまな国に拠点を持つサプライヤーが何層にも重なって存在していますから、原材料として使われる鉱物の供給源をたどるのは非常に難しいのです。それに、鉱物がいったん金属に加工されてしまうと原産国や採掘した鉱山を特定するのが困難になるため、鉱物の製錬・精製業者も検証プロセスに組み込まなくてはなりません。
すべてのサプライヤーや製錬・精製業者を訪問して、審査をしたり、供給源をたどれるような仕組みづくりをお願いしたり、気の遠くなるような作業を積み重ねて、ようやくコンフリクト・フリーを実現しました。
これをきっかけにして、電子機器、航空機、自動車など7つの業界から180社が参加するイニシアティブが発足し、コンフリクト・フリーな調達が他の業界にも広まったのですが、最初に宣言した経営トップのリーダーシップが大きかったと思いますね。
藤井 世の中にとっていいことだという「大義」があったから、賛同者がどんどん増えていったのでしょうね。そして、大義あるゴールを先に宣言し、そこからバックキャスティングして今なすべきことを積み重ねていくというアプローチが重要だと思います。
江田 そうですね。誰もやったことがないけれども、大義があるから勇気をもって宣言する。実際やっているうちに周囲のトーンというか、評価もポジティブなものに変わっていくのを感じました。
ですから、誰かがリスクを取って新たな仕組みをつくり上げる、それが広まっていくという、そういうゴールへのたどり着き方もあると思います。
藤井 そうですよね。2018年10月に世界のタイヤメーカーや自動車会社が参加する「持続可能な天然ゴムのための新たなグローバルプラットフォーム(GPSNR)」が発足しましたが、これは大手タイヤメーカーのミシュランが、森林の乱開発などを防ぐために透明性の高い天然ゴムのサプライチェーンを構築したことが、きっかけだったと聞いています。
社会課題の解決という大義に対しては、サポーターが集まりやすい世の中に変わってきていますし、サステナビリティーを高めるために役立つテクノロジーも発達しています。例えば、原材料のトレーサビリティー(追跡可能性)を実現するためにブロックチェーン技術を使う実証実験は、世界中で始まっています。
江田 サステナビリティーに関する取り組みは、以前より格段にやりやすくなっていると思います。前例のない取り組みに勇気を持ってチャレンジする企業が増えてくると、世の中は大きく変わっていくかもしれません。
藤井 日本の中でそのような企業がさらに増えてくることを期待したいと思います。
今日は本当にありがとうございました。