DHBR最新号の特集「データドリブン経営」は、今後の企業の命運を決めるテーマです。急速な技術革新によって収集可能となったビッグデータを、どのように活用して価値を創造するか。データサイエンスをいかに経営で活かすか。その巧拙により、短期間で企業の雌雄が決します。


 特集1番目の論文では、マッキンゼー・アンド・カンパニーの3人のパートナーが、データドリブン経営の威力を明らかにします。彼らの試算によれば、データドリブン経営の実現によって、現在の世界市場全体で1000兆円を超える価値創造が見込まれます。

 その内訳を、小売りや自動車などの産業ごとにいくらか、営業や製造などの業務領域ではどれくらいかと、分類して示しています。後者については、どのような形で価値創造が可能か、事例をもとに説明していますので、読者の立場ごとにデータドリブン経営がイメージできるかと思います。

 ただし、全社変革による全体最適を実現しないと、真のデータドリブン経営にはなりません。論文の後半では、日本企業が実践するに際して直面する障壁とその克服法を提示しています。

 特集の2つ目の論文は、『ハーバード・ビジネス・レビュー』のシニアエディターが、この分野で先進する企業の課題として、データサイエンティストと経営者との間に存在する誤解を指摘します。

 データサイエンティストは貴重な知見を示しても経営者が的確に理解できないと考える一方、経営者は自分たちに必要な指針をデータサイエンティストが出さないと思っている、というのです。筆者は、データサイエンティストに必要な複数のスキルを明確にして、それらをチームで持てる組織体制にする解決策を提案します。

 データドリブン経営における課題を超えて、成果を出している数少ない日本企業の一つに、楽天があります。その理由を特集3番目の論考として、CDO(チーフ・データ・オフィサー)の北川拓也氏にインタビューしました。

 経営危機にあった米リフトの買収を決断したのは(その後、今年3月に米ナスダック市場に上場で多額の利得)、データ分析で成長性を見極めたからという話に始まり、データドリブン経営の意義、CDOと経営者の関係、全社改革の方法などを詳しく聞きました。ハイレベルのモデルケースです。

 特集4番目の論文は、日本企業にとって最も役に立つ論文です。筆者は、データサイエンティストの第一人者である、滋賀大学教授の河本薫氏。

 データ分析で得た課題解決の方法を、意思決定に役立て、ビジネスの成果を出すことに焦点を絞った提言です。大阪ガスでの27年間の勤務経験をもとに、日本企業の実情に合った、現場の能力を引き出す経営施策となっています。

 特集最後の論文は、データドリブン経営の一領域、ピープルアナリティクスの最先端の提言です。社員間メールの送受信データなどを分析することで、組織の業務効率や創造性を高める方法を示しています。背景には、筆者たちによる膨大な調査研究に基づくフレームワークがあります。