ビッグデータを活用して生産性を高める

 最近、コンサルティング会社が、「デジタルドリブン経営」の効果や施策を訴える機会がますます増えています。

 各社とも差別化戦略をとっていますので表現は違いますが、「デジタル技術によって収集するビッグデータを活用して生産性を高める」ということが訴求の共通点だと私は思います。

 生産性=アウトプット/インプットです。施策により、アウトプット増加とインプット減少それぞれの効果があり、主張の力点は違いますが、共通点は上記の通りです。今号のDHBRで特集しました通り、デジタル技術の応用期に入り、成功事例が多く出てきたことや成果に差が出てきたことが、こうした動きの背景にあります。

 アクセンチュアが4月18日に開催したメディア向け発表会では、「ポストデジタル時代の到来」と称して、テクノロジーの進化の方向性とその活用事例を紹介していました。

 例えば、同社が導入しているシステム、ロボットPMOでは、社内で公開されたデータを同システムが把握して、毎日メンバーに優先すべき業務を提示したりチームの作業進捗状況を明示したりして生産性を上げているということでした。

 他には、航空会社のサービスカウンターで顧客対応する社員の声を音声認識AIが認識し、即座に適切な情報を顧客に提示することで付加価値を高める事例などが紹介されていました。

 ボストン・コンサルティング・グループの米国の経営幹部へのインタビューでは(記事は5月13日にdhbr.netで公開予定)、データ活用のマーケティング「パーソナライゼーション」の実用化が米国では進み、「今後5年間に小売、ヘルスケア、金融サービスの3つの業界だけで約8000億ドルの売上が、パーソナライゼ―ションを活用する15%の企業へシフトすると予測している」とのことでした。

 具体的施策については、スティッチ フィックスを成功事例として挙げていました(DHBR2018年11月号掲載の同社CEOインタビューもご参照ください)。

 そして今後、影響が大きい業界として金融を指摘しています。例えば顧客が新サービスを受ける場合に、銀行の店舗に行ったり必要書類を記入したりする煩わしさがデジタル技術の活用で解消されるという需要側と、行員の作業効率が改善される供給側の両面での効果を強調しています。

 これを実現する上でのポイントは、さらなる規制緩和です。米国以上に高齢化が進み、人手不足感の強い日本社会にとっては、実現すれば、影響力はより大きなものになると考えられます。

 米国のイノベーションと生産性、経済成長を分析して昨年話題になった大著『アメリカ経済 成長の終焉』(ロバート・ゴードン著、日経BP社)では、デジタル技術の効果をやや悲観的に予測しています。

 そして、技術革新やイノベーションが加速しても成長率や生産性を抑える要因として、国の格差や教育(日本は規制)などの「逆風」について多く言及しています。

 この見方を企業経営に当てはめれば、逆風は社内規制や慣習などになるでしょうか。そうした逆風にもめげず、いかにデジタル技術の効果を最大化するか。DHBR最新号の特集では、いろいろな角度から対策を論じています。

 また、巻頭論文は、あらゆる企業の課題である「イノベーションの実現」を実践的に説いていて秀逸です。TQM(総合的品質管理)が製造分野で成果を上げたのと同様に、「デザイン思考」が人材の創造性を引き出し、イノベーションを劇的に高める社会技術であると論じます。(編集長・大坪亮)