テクノロジーは急速に進行しており、手持ちのスキルがあっという間に時代遅れになることはしょっちゅうだ。個人も企業も政府も、競争力を維持するためにスキル開発に取り組むべきであるが、実際はどうだろう。「ビジネス」「テクノロジー」「データサイエンス」という3つのスキルに着目して評価し、国別および業界別のランキングを作成した。それぞれの国や業界が抱える課題が明らかにされる。
技術変化のペースは、多くの職業活動と、それらが必要とするスキルを時代遅れのものとしつつある。マッキンゼーの研究によれば、世界的に50%超の労働力が、自動化により仕事を失うリスクにさらされているという。また、世界経済フォーラムの調査によれば、今日必要とされている中核的な職務スキルの42%は、2022年までに大きく変わるという。
たえ間ない破壊的変化が進む状況の中で、個人、企業、政府は、競争力を保つためのスキルを確実に保持しようと奮闘している。
職務スキルをめぐる世界の状況を浮き彫りにするために、我々コーセラ(Coursera)は最近、グローバル・スキル・インデックス(GSI)報告書の初版を発表した。コーセラは、高等教育のための世界最大のオンラインプラットフォームとして、世界中の4000万人の学習者に、一流の大学や企業による3000を上回るコースを提供している。
このプラットフォームならではの学習データを活用して、グローバル・スキル・インデックスは60ヵ国(合計で世界人口の80%、全世界のGDPの95%に相当)におけるスキルを測定し、ランク付けしている。また、主要な10業界のスキルの測定とランク付けも行っている。
コーセラの学習者はけっして完璧な代表サンプルではないが、きわめて意欲的で、みずからのスキル群を向上できる人たちであるため、分析対象として特に重要である。国や業界のスキル特性を算出した方法の詳細については、記事末尾の「コーセラのスキル・インデックス算出手法」を参照されたい。
我々は今回の初版で、ビジネス、テクノロジー、データサイエンスのスキルに着目した。これらは自動化と人工知能の時代において、生産性の中心をなすものだ。
企業と政府は、次のような働き手をますます必要としている。生産性の拡大を後押しするイノベーションを創出するための、テクノロジーやデータサイエンスのスキルを備えた人。そして、変革によって組織を運営・主導するためのビジネススキルを備えた人である。
先進国市場と発展途上国市場との間では、スキルに歴然たる隔たりがあることがわかった。北米と欧州は平均的に、ラテンアメリカ、アジア、中東をはるかに凌駕している。とはいえ、米国は3つの領域のいずれにおいても上位4分の1に届いておらず、しかも大きな地域的不均衡を示している。特に米国南部は、主要なスキル分野で遅れをとっていた。
業界で見ると、製造と電気通信がスキルの強みを示し、ハイテク業界も(予想通り)テクノロジーとデータサイエンスに秀でているが、ビジネスには弱かった。
我々は報告書の60ヵ国をスキルによってランク付けし、それぞれの国を次の4つのカテゴリーのいずれかに分類した。「最先端」(第1~15位)、「競争力がある」(第16~30位)、「成長途上」(第31~45位)、「遅れている」(第46~60位)である。同じことを主要な10業界についても実施した。
当然ながら、ある国または業界の学習者がスキル分野内の評価で成績が良ければ、その国・業界のランクは高くなった。履修科目の難易度については、調整を施した。
世界レベルでの我々の発見は、以下の通りである。
●世界のほとんどの国は、3つのスキルで遅れている
経済が発展途上で、教育にあまり投資していない国は、スキル不足が最も大きく、90%が「遅れている」か「成長途上」のカテゴリーにランク付けされた。ある国のビジネス、テクノロジー、データサイエンス全体を通じたランクの低さは、一人当たりのGDPと負の相関を示し、自動化のリスクと正の相関を示した。このことは、スキルの高い国ほど経済状況が良好で、自動化による労働市場の破壊のリスクは低いことを意味する。
●もちろん、世界の先頭に立つ国があり、それは往々にして、生涯学習と公教育の取り組みに投資する資金が潤沢にある富裕な経済国家であった
欧州諸国は、ビジネス、テクノロジー、データサイエンスを通じて、「最先端」のカテゴリーの80%超を占める。フィンランド、スイス、オーストリア、スウェーデン、ドイツ、ベルギー、ノルウェー、オランダは、3つの領域すべてで一貫して「最先端」であった。
●とはいえ、世界のイノベーションの中心地として知られる国でも、凡庸な結果で意外なところもあった
米国は、イノベーションに長けたビジネスリーダー国家として知られているにもかかわらず、中間のランクにとどまり、3つの領域のいずれにおいても「最先端」ではない。また米国内では、スキルの熟達度の分布が一様ではない。西部はテクノロジーとデータサイエンスの領域で他の地域に抜きん出ており、中西部はビジネスが強い。