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管理職になってみて気づくこと
どれほど才能に恵まれていようと、リーダーへの道は学習と研鑽の連続であり、果実は艱難辛苦の末に得られる。その最初のハードルは、初めて部下を持った時に訪れる。当たり前だからであろうか、だれも気に留めない。まったく残念なことだ。なぜなら、通過儀礼の一つとはいえ、ここでの試練が本人と企業、それぞれの行く末に決定的な影響を及ぼすからである。
リーダーへの道を踏み出すうえで最初の体験ゆえ、けっして消えることのない影響が残る。数十年後、彼ら彼女らはこの最初の数カ月間を、自身のリーダーシップ哲学とスタイルをかたちづくった体験として思い出す。
その影は現役最後の日までつきまとい、悪くすれば手かせ足かせになるのではないかとも懸念される。業績と資質を認められて昇格した人物が、管理職という仕事に順応できなければ、企業は人的資本の面でも財務の面でも多大な損失を被るだろう。
管理職の仕事は一筋縄にいくものではなく、失敗がつきものである。新米マネジャーのだれでもかまわない、辞令を受け取った直後の日々について尋ねてみよう。また経営陣に同じ質問をして、新米マネジャーだった頃の自分を思い出してもらおう。
正直に答えてくれる相手ならば、進むべき方向がわからず、途方に暮れていたといった話を語ってくれるかもしれない。あるいは、初めてのことに戸惑い、不安で押しつぶされそうになった経験を打ち明けてくれるかもしれない。「自分の想像と大きくかけ離れていた」「手に余る重責だと思った」「職掌範囲がどうこうというよりも、リーダーシップなど関係ないとしか言いようがなかった」等々──。
某証券会社の新任支店長の言葉を借りれば、次のようになる。
「ろくな権限もないまま人の上に立つことが、どれほどやっかいなことか、おわかりになりますか。うまく言い表せませんが、あえて申し上げれば、子どもが生まれる時のような気持ちです。生まれるまでは、まだ親ではありません。しかし生まれてくれば、母親なり父親になります。しかもその瞬間から、経験がなくても、子育てができて当然と思われるわけです」
このように、リーダーの道における最初のハードルは難しく、だからこそ重要である。しかし意外にも、新米マネジャーたちがその時に直面する課題や経験に、これまでほとんど目が向けられてこなかった。
リーダーシップにまつわる書籍は、どれを選んでよいのかわからないくらいに、書店の棚にあふれている。しかし、マネジャーの心得を身につける難しさを取り上げた本、とりわけ新米マネジャーのために書かれた類のものは皆無に近い。
私はおよそ15年間、管理職に昇格するというキャリア上の節目について、とりわけ花形社員のそれについて研究してきた。それは、新米マネジャーたちに向けて、マネジャーの心得を身につける苦労を本音で語り合えるフォーラムを開くという構想があったからである。