●低報酬だがブランド構築に役立つ仕事をしたがらない

 新米のコーチやコンサルタントは、早い段階から「群れ」と差をつける必要がある。群れというのは、世界で約5万3000人以上いるとされるコーチのことである。そこには毎年7~10%の割合で、やる気に満ちた新人が増えていく。

 最善の方法は、できるだけ多くの「社会的証明」(外部から認識される信用性)を積み上げることだ。だが、新たに独立した人々は往々にして、高給を得ていた会社員時代の金銭感覚を捨てられないのか、独立直後に必要となるブランド構築に役立つ仕事を、無料もしくは低報酬だからといってやりたがらない。

 私がコーチングをしているクライアントの一人は、謝礼500ドルで打診された講演を、小ばかにして断ろうとしていた。そこで私は、その依頼はアイビーリーグのエグゼクティブ教育プログラムの講演であることを指摘した。名門大学での講演実績があれば、経歴に箔がつくばかりか、他のエグゼクティブ教育を担当するチャンスにつながり、さらには将来のクライアントに圧倒的な信用性を与えるのだ、と。

 たいていの場合、無料または低報酬の仕事を断るのは適切な判断だが、独立直後においては、ブランドの信用性を大きく高めてくれるものならば、引き受ける価値がある。

 ●過去の人脈にアプローチしたがらない

 セレブでもない限り、新米のコーチやコンサルタントが独立直後にクライアントを獲得する方法はただ一つ、既存のネットワークを活用することだ。

 ネットワークの外にいる人々は、当然のことながら、実績がない人に自分が抱える仕事の課題を預けたいとは思わない。だが、以前からあなたの能力をよく知る人は、その能力を別の領域でも発揮できると考えて、あなたに賭けてくれることがある。

 にもかかわらず、独立したばかりの多くの人は、仕事を懇願しても断られるのではないかと不安になったり、自分が傷つくことを恐れたりして、クライアントになる可能性が最も高い人たちへのアプローチに二の足を踏む。代わりに、新しい人脈の中から突如として、契約したいと思う相手が現れるかもしれない、という不可解な期待を抱くのだ。

 拙著Reinventing You(未訳)で取り上げたあるエグゼクティブコーチは、丸2年もの間、自分のアドレス帳に載っている人々に、自分が新しい仕事を始めたことを知らせなかった。彼女は前述の心理的障壁を乗り越えたことで、初めて大きな成功を収めることができた。

 独立直後からあまり強気に出るのはどうか、とためらうのは無理からぬことだが、押しつけがましくない短いメッセージを個人的に送るのは(一斉配信メールは無視されやすいので不可)、あなたのネットワークに新しいビジネスを周知させるのに効果的である。少なくとも、依頼したい案件があるとき、あなたのことを考慮してもらえるだろう。

 たとえば、短いメッセージで挨拶と近況伺いをした後に、「実は最近、ビジネスコーチング/コンサルティングの仕事を始めて、とても張り切っています(次に、理想のクライアントや重点分野に関する説明を挿入)。もし該当する方をご存知でしたら、いつでも歓迎いたします」と添える。

 相手を困惑させることなく、紹介してくれるよう要求するのでもなく、もし適切と思える人がいたら紹介してもらえれば大歓迎だと明確に伝えよう。これは小さいものの、重要なステップだ。しかし、新米のコーチやコンサルタントは躊躇することが少なくない。

 ●クライアントのニーズより自分の関心に焦点がある

 クライアントが買いたいものを売らない限り、成功しない。これは起業の最も基本的な原則だ。にもかかわらず、コーチングやコンサルティングで独立することを切望していたプロフェッショナルは、起業をビジネスではなく、創造的表現の手段だと思い込んでしまうことが多い。

 私が助言したある新人コーチは、法人顧客を獲得できずに苛立っていた。

 彼女の経歴は非の打ちどころがなく、フォーチュン500に名を連ねる一流企業で上級職につき、国際経験も豊かだった。躓いた原因は、すぐに判明した。彼女が開いたコーチングのウェブサイトは、自分が関心を持つスピリチュアルな話題ばかりだったのだ。

 スピリチュアルに傾倒するコーチを評価する人もたくさんいるだろう。だが、ウェブサイトのメッセージは、これまでのスキルや信用性に触れておらず、特筆すべきビジネス領域に関する記載がどこにもなかった。法人顧客がつかなかったは、そのためである(彼女と契約するエグゼクティブがいたとしたら、支出の適切性について追及されるはめになっただろう)。たとえ、ビジネスを最も内なる自己の反映と考えるにしても、顧客が何に対して財布の紐を緩めるのかを知らなくてはならない。

 コーチやコンサルタントとして独立することは、多くのプロフェッショナルにとって憧れの目標であり、相当の報酬を稼げる可能性がある。

 そのためには、早い段階から社会的証明を積み上げることに力を注ごう。あなたのことをよく知り、あなたの仕事を信頼してくれる元同僚に積極的にアプローチしよう。クライアントにとって実りある成果を出せるよう照準を定めよう。

 新米のコーチやコンサルタントが陥りがちな3つの落とし穴を回避することができれば、あなたのビジネスはますます成功し、大きな影響力を持つようになるだろう。


HBR.org原文:3 Reasons New Coaches and Consultants Fail, July 03, 2019.

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ドリー・クラーク(Dorie Clark)
マーケティング戦略のコンサルタント、講演家。デューク大学フュークア・スクール・オブ・ビジネスでも教鞭を執る。著書にEntrepreneurial YouReinventing YouStand Out(いずれも未訳)がある。無料の自己診断プログラムRecognized Expertも受けられる。