適材適所こそ勝利の方程式である

 優れた労働力は、優れた人たちから提供される。言うまでもあるまい。近年、企業が軒並み「Aクラス人材」と呼ばれる逸材の発見、育成、引き止めに労力を傾けているのは何ら不思議ではない。

 ゼネラル・エレクトリック(GE)やIBM、マイクロソフトといった企業は、いずれも成績優秀で将来性の高い社員を囲い込み、そのモチベーションを高め、その一方、凡庸な社員を排除する仕組みを強化している。このような姿勢は、マネジメントの専門家たちに広く支持されている。

 たとえばラリー・ボシディは、ラム・チャランとの共著『経営は「実行」[注]』のなかで、この種の社員の差別化を「実力主義の企業文化を育む土壌」と形容している。

 Aクラス人材にもっぱらスポットライトが当たるのは、理屈からすれば至極当然のことである。しかし、このようなハイ・パフォーマーたちが馬車馬のごとく驀進したところで、馬車の目指すところに市場がなければ、無意味である。彼ら彼女らは、正しい馬車につながれて、すなわち企業戦略に不可欠な仕事に従事して、初めてその能力を発揮できる。これもまた、自明の理と思われるかもしれない。

 ところが驚くべきことに、戦略上重要な「Aポジション」を社内に明示し、そのうえでそのAポジションにふさわしい人材を見出している企業など皆無に等しい。しかも、Aクラス人材がその能力に見合った役割を果たし、かつそのような業績を達成できるように、Aポジションを管理している企業となるとゼロだろう。

 Aクラス人材を多数抱えた企業が勝利するというのが世の常識かもしれない。しかし、ハイ・パフォーマーを呼び込み、選別し、育成し、定着させるための資金と資源を考えれば、あらゆるポジションにAクラス人材を配置する余裕などないはずである。

 勝利するのは、適材適所を実現している企業なのだ。そのためには、人材管理にもポートフォリオ・マネジメントを徹底しなければならない。最も優秀なハイ・パフォーマーをAポジションに登用する一方、そこそこ優秀な人材をそのサポーターとして「Bポジション」に置き、価値をもたらさない社員と仕事は切り捨てる。

 本稿では、その方法を具体的に説明する。そのなかで、我々が研究者として、あるいはコンサルタントとして関わってきた企業をはじめ、このアプローチを人材管理にうまく取り入れている企業の事例をいくつか紹介したい。

 なお、忘れてはならないことが一つある。あなたの会社のAポジションを効果的に管理するには、BポジションとCポジションもうまく管理しなければならないということである。

Aポジションを定義する

 ある仕事が組織に占める相対的価値を測る伝統的な方法には二とおりある。「人事部門のアプローチ」と「経済学のアプローチ」である。