営業改革は時代の要請

 今日の営業部門に求められるリーダーシップとは何か。この問いに正しく答えられる経営幹部はほとんどいないだろう。CSO(最高営業責任者)自身も、また営業部門は売上高を伸ばす牽引力であると解釈しているCEOも、「CSOの仕事とは何か」、きちんと理解できていない場合が多い。

 実は、営業部門を率いるリーダー、すなわちCSOに要求されているのは、各営業担当者のモチベーションを高めたり、彼ら彼女らをしっかり管理したりすることにとどまらない。これからのCSOは、顧客セグメンテーションからメンバーの査定まで、もれなく管理の行き届いた営業プロセスを構築し、それを維持していくことに多大な時間とエネルギーを費やさなければならないのだ。

 むろん、このようなプロセスは例外なく複雑であり、たとえうまくいっている営業組織でも、プロセス全体をスムーズに運営するには膨大な労力を傾けているのが実情ではなかろうか。現に、多くのCSOが踏み出せずにいる。しかし、一組織を預かる者として、営業プロセスの管理だけに時間をかけるわけにはいかない。

 この20年間、営業部門のリーダーが担うべき仕事はすっかり様変わりしてしまった。顧客からの期待や他部門の責任者からの要求が高まる一方、営業の現場からもこれまでとは異なる役割が求められている。

 我々は、20種類以上の業界にわたって各企業の営業組織についてくまなく調査した。これに加えて、CSOとその上司に当たる経営陣、営業リーダーシップを専門とするコンサルタント10人以上にデプス・インタビューを実施した。

 本稿ではまず、事業環境の変化によってCSOの仕事がどのように変化したかについて考察する。次に、これからのCSOに求められる新たな役割について解説する。この新しい職掌は、CSOの成功条件を知るために、あるいはCEOがCSOとして最もふさわしい人材を採用するうえでも役立つはずだ。

 有能なCSOのスケジュール帳をのぞいてみれば、その仕事がいかに複雑化しているかがわかるはずだ(「あるCSO氏の1週間」を参照)。これほど複雑になったのは、以下に挙げる事業環境の変化が原因である。ほとんどの大企業がこのような環境変化に直面しており、むろんその営業活動にも影響が及んでいる。

あるCSO氏の1週間

 事業環境の変化に応じて、CSO(最高営業責任者)も新たな役割を果たさなければならなくなっている。以下に、カリフォルニア州カールズバッドのライフ・サイエンス関連のプロバイダー、インビトロジェンのグローバル営業組織を率いるベン・バルクリーの1週間のスケジュールを見ながら、CSOの新しい役割について考えてみたい。

月曜日
[AM]

・北米市場におけるグローバル事業の月次報告(電話会議)
[PM]
・価格検討委員会の会議に出席
営業効率化プロジェクトの進捗状況について確認
 〔↑Process Guru「プロセスの権威」として、たえず営業プロセスを見直す。〕
eビジネスの進捗状況について確認
 〔↑Organization Architect「組織設計者」として、オンライン発注システムの導入によって直販戦略の修正が必要となるかどうかを判断する。〕
・アジア・太平洋圏におけるグローバル事業の月次報告(時差の関係で夜の電話会議)

火曜日
[AM]

・製品部門のマーケティング会議
[PM]
・翌週に予定されている業界団体の理事会、およびアナリスト・ミーティングの準備
・ロンドンへ出張

水曜日
[AM]

・顧客X社との会議(ロンドン郊外)
 -X社経営陣と同社の事業戦略全般について意見交換
 -知的財産保護における最新動向に関するワークショップに参加
 〔↑Customer Champion「顧客の代弁者」として、単に製品情報を提供するだけではなく、業界の最新動向に関する情報を提供し、執行役員として顧客リレーションシップの強化を図る。〕
[PM]
・顧客X社との会議
 -顧客の生産工場見学
・グラスゴーへ移動
・ヨーロッパ現地オフィスのスタッフと夕食を共にし、現地の顧客が抱えている課題についてヒアリング

木曜日
[AM]

・パリに出張
・顧客Y社との会議(パリ郊外)
 -Y社経営陣と同社の事業戦略全般について意見交換
[PM]
・顧客Y社とのミーティング
 -NIH(アメリカ国立衛生研究所)科学研究費の最新動向に関するワークショップに参加
・ロサンゼルスに戻る

金曜日
[AM]

・営業管理職のリーダーシップ開発ワークショップに参加
・将来有望な営業管理職に一対一のコーチング
・営業本部長候補者と面談
[PM]
地域別および製品別の週次業績を検討
 〔↑Course Corrector「軌道を修正する者」として、営業戦略の調整が必要なことを示す兆候がわずかでもないか目を光らせる。〕
新規事業開発プロジェクトに関する部門横断会議
 〔↑Company Leader「企業リーダー」として、製品開発と営業戦略を整合させるために、他部門とのコラボレーションを図る。〕
・翌週に上海で予定されている顧客Z社とのミーティングに備えて、製品開発および顧客サービス担当役員とZ社について検討

土曜日
[AM]

・月曜日のCEOと他の経営陣へのプレゼンテーションに備えて、プロジェクト・チームと戦略企画会議

(1)顧客へのパワー・シフト

 多くの業種において、明らかに供給過多が見られる。インターネットが発達したことで、顧客は購入する製品やその購入方法について、以前よりも多くの情報と選択肢を持つようになった。売り手から買い手にパワー・シフトが起こり、サプライヤーや納品のあり方について、顧客はますます多くを求めるようになっている。

(2)顧客のグローバル化

 事業がグローバル化したことで、特定の地域や国だけを対象とした営業体制は時代遅れになった。したがってサプライヤーは、自社の営業部門を顧客企業の事業戦略および調達プロセスのグローバル化に見合ったものに変更しなければならない。