従業員を最優先する

 最高の職場は、仕事だけでなく人生にも満足感を与えてくれる。私たちが話を聞いた企業の創業者やCEOはほぼ全員、働く人を念頭に置いて会社を構築したと言っていた。健全な文化は、健全なバランスシートと同じくらい重要だというのだ。その姿勢は、最低賃金を大きく超える範囲にまで影響を与える。

 サンフランシスコの高級スーパーマーケット「バイライト・マーケット(Bi-Rite Market)」では、時給15.59ドルとフルカバーの医療保険だけでなく、全従業員の確定拠出年金401(k)に、本人の掛金と同額を拠出している(ただし収入額の4%まで)。また、従業員への利益分配は、一般的な従業員の給料の2~6%を占める。

 こうした社会保障は、パートタイマーを含め、勤務時間が週20時間を超える全員に適用される。このためバイライトには、親の代からバイライトで働いているという従業員が多い。永年勤続者の子どもが、夏休みにアルバイトをすることも多い。

 私たちが訪問したときは、インターンのうち2人が従業員の子弟で、それぞれハーバード大学とウェルズリー大学の休みを利用して働きにきていた。企業が従業員に投資すると、何世代にもわたり豊かにすることができるのだ。

 従業員のワーク・ライフ・バランスや、心身の健康維持のための補完的プログラムを数多く提供している企業もあった。具体的には、ストレス軽減ワークショップや栄養相談、フィナンシャル・プラニング、苦情相談などだ。

 こうしたホリスティックなプログラムがもたらす効果は、労務管理ソフトウエア会社バンブーHR(BambooHR)の従業員2人のコメントが雄弁に物語っている。「(フィナンシャル・プラニングと予算作成)クラスのおかげで、結婚が破綻せずに済んだ」「この会社で働くようになってから、もっといい父親になれたと思う」

「人を大切にする経営」の一環として、困っている従業員のために、もっと直接的な行動を起こした会社もある。

 医療関係のビッグデータ企業ヘルス・カタリスト(Health Catalyst)は、珍しい免疫不全症を持つ赤ん坊が生まれた従業員のために、管理された生活環境づくりを支援した。また、BAFは、従業員がひどい自動車事故に遭ったとき、その一家が同じアパートの3階から1階にそっくり引っ越すのを支援した。内装も家具の配置もまったく同じにするとともに、その従業員が自宅療養中に会社とつながっていられるようにするテクノロジーを配備した(その従業員は入社間もなかったにもかかわらず)。

 私たちが選んだ企業には、こうした「いい話」が数えきれないほどあった。従業員が必要とするときは通常以上の休みを与えてやった、家族の保険を補助するために医療費を負担してあげた、亡くなった従業員の子どもの大学の学費を負担した……。

 なぜ、こうしたことをするのか。その問いに対する経営者たちの典型的な答えは、N2パブリッシングの創業者でCEOのドゥエイン・ヒクソンの言葉が象徴している。「もちろん利益を上げる必要はあるが、それが最終目標ではない。人間が生きていくためには空気と水が必要だが、それを確保することがゴールではないのと同じだ。私たちが目指しているのは、従業員がよりよい人生を送るのを助けることだ」