営業担当者は「幸せな敗北者」である

 営業という行為には、何かしら人を引きつけるものがある。営業に従事する人々の、何度も何度も断られても必ず立ち直る不屈の精神、そしていつかは必ずうまくいくという信念には称賛を禁じえない。しかし同時に、営業担当者たちが受ける過酷な仕打ちを見聞きするからだろうか、営業という仕事にはたえず嫌悪感がつきまとう。

 ピューリッツアー賞を受賞したアーサー・ミラーの戯曲『セールスマンの死[注1]』は、仕事の空しさのせいで破滅に至る一人の善良な男を描いた物語である。デイビット・マメット原作の映画『摩天楼を夢みて[注2]』で描かれる営業マン像はさらに絶望的で、成功するにはモラルを捨てるしか道はないかのようだ。ではいったい、どのようなタイプの人間が営業担当者にふさわしいのだろうか。また、どのようにこの仕事と折り合いをつけているのだろうか。

 これらの疑問についての考えを聞くために、G. クロテール・ラパイユにインタビューを試みた。心理学者にして人類学者、そしてマーケティングのグールーでもあるラパイユは、この問題にコメントするにふさわしい人物である。

 彼はパリのソルボンヌ大学から、政治学と心理学の修士号と医療人類学の博士号を取得している。フランスで10年間、精神分析医として働き、フロイト派とユング派の手法を実践した経験もある。

 ラパイユの研究テーマは文化が事業活動や市場に及ぼす影響であり、これまでにシャンプー、コーヒー、自動車、トイレット・ペーパーなど、日用品の文化的意義を探求した書籍を何冊か著している。最近出版された著作としてはThe Culture Codeがある。

 彼の研究には世界的大企業が関心を寄せている。ラパイユがコンサルティングを提供している企業には、シティバンク、デュポン、エクソンモービル、ゼネラル・エレクトリック、IBM、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)、ユニリーバなどがある。

 さまざまな文化的規範が相互に対立を深めつつある世界にあって、これらの企業が、それにふさわしい行動様式を学ぶ一助を提供するのが彼の役目である。

 たとえば、英語の"quality"に相当する日本語の単語は10以上もあり、それぞれが異なる意味を持っていることを西洋のビジネスマンが知れば、日本人パートナーへの理解がいっそう深まると、ラパイユは指摘する。