破壊的イノベーション理論を応用する

 気楽に見ている分には、アメリカン・フットボールはシンプルなスポーツである。走って、パスして、キックする。途中何度も中断しては、車のコマーシャルが流れる。ところが熱烈なファンは、アメフトが複雑なスポーツであることを知っている。

 NFLチームのプレー・ブックは、マンハッタンの電話帳ほど分厚い。コーチは攻撃のつど、フォーメーションとプレーを選ぶ。プレーヤーたちは全員、自分が果たすべき役割を認識しており、個々の戦局にふさわしい動きについても心得ている。優れたコーチは、たえず変化する状況でも、確実に勝利する術を熟知している。

 各プレーヤーの強みを上手に引き出すには、やはり優れたプレー・ブックが不可欠である。最善のプレーを選ぶとはいえ、敵の強みと弱み、試合の状況を考慮しながら決めなければならない。したがって、試合中、臨機応変に変更できる必要がある。

 プレーヤーにも、敵の動きに瞬時に反応して、その場でプレーを変える柔軟性が求められる。何週間にもわたるハード・スケジュールのなかで、これらを完璧にこなせるチームが、チャンピオンの座を勝ち取るのである。

 ビジネス・リーダーであれば、革新的な成長事業を創出するのは、アメフト以上に複雑であることを承知している。にもかかわらず、成功への布石を打つための作戦なしに、イノベーションに取り組む企業が依然多い。

 それどころか、過去に成功した戦略を持ち出して、要領よく「2匹目のドジョウ」を狙おうとする。あるいは、研究所が温めてきた新技術を利用できそうな市場を求めて東奔西走する。しかし、こうした過去の戦術が通用しないことがわかり、がく然とする。

 無手勝流に成長を目指していては、結果は成り行き任せとなり、たいていは期待外れに終わる。「悪戦苦闘を繰り返したが、もうお手上げだ」「イノベーションを予測するなんて不可能である」とこぼす経営者もいる。実際、イノベーションの世界は五里霧中であり、将来有望なチャンスなど知るよしもなく、成功は多分に運任せと思われている。

 これに疑問を抱いた我々は、過去5年間、数多くの企業を相手に、ハーバード・ビジネススクール教授のクレイトン・クリステンセンが解明した「破壊的イノベーション」の概念を応用してきた。