再び問う:製造業のサービス業化

 製造業は、サービス企業へと転換を図らなければならない。この事実に気づいていない製造業は深刻な危機に瀕しているといえる。しかし残念ながら、そのような企業が少なくない。本業はモノづくりであると考えており、粗利益や営業利益のような財務指標がいくら良好でも、それは製造の視点にすぎない。

 目端の利いた企業は、すでに周辺サービスの提供に力を入れている。なかにはサービス事業でも利益を上げている企業もあるが、その競争優位性はまだ一時的である。製品のメインテナンスや消耗品の補充など、面倒な作業を引き受ければ、顧客リレーションシップは改善されるかもしれないが、それ以上でもそれ以下でもない。

 一部の賢い企業は、サービスからさらなる利益を引き出そうとしている。遠からず製造分野において、単なるサービスを提供するだけでは十分ではない時代が訪れる。そこでは「スマート・サービス」の提供が必至となろう。

 スマート・サービスとは、製品のメインテナンスやアップグレードのみにとどまらず、顧客には価値を、企業にはコスト効率をもたらす。また、スマート・サービスを提供するには、製品そのものにインテリジェンスを組み込まなければならない。それは「目に見える認識」であり、「接続性」である。そして、製品はみずから使用状況を知らせてくれるが、それに対応する準備が整っていなければ意味がない。

 ここで、高性能印刷機製造のハイデルベルガー・ドゥルックマシネン(以下ハイデルベルグ)を取り上げてみたい。同社は、1850年に創業して以来、一貫して顧客に修繕サービスを提供してきた。同社は数年前、印刷機を遠隔からモニターする機能を開発し、これによってメインテナンス・コストの効率性が改善された。

 現在は、インターネットを介して、印刷機の状態に関する情報を、顧客の印刷場と世界中に散らばるテクニカル・サポート担当者の間で継続的に交換している。こうして、顧客に納めた印刷機の稼働効率を把握できる。

 現在、同社の製品サポートは総合的で、印刷機の撤去や再販にまで及び、顧客に新たな価値を提供している。ネットワーク化によって、ハイデルベルグは差別化されたといってよい。そして、顧客との関係もいちだんと深化している。

 スマート・サービス企業に転換することのメリットはきわめて大きい。我々の調査によれば、そのような企業の多くが2桁の成長率を達成している。これら先進企業は業界内で新しい業績評価指標を確立しつつあり、売上げの50%以上、利益の60%以上を製品販売からでなく、サービス提供から得ている。製造業の経営陣にすれば、このような数字は天にも昇るような気持ちではなかろうか。

 スマート・サービス企業の第一条件は、けっして技術ではない。もちろんカギとなる技術もあるが、この段階では既存のもので十分である。むしろ、ほとんどの企業にとって最大の問題は、経営陣に新しいビジネスモデルを採用する気概があるかどうかである。スマート・サービスの先駆的企業を見ると、目的と利益を追求する方法は異なれど、試行錯誤を経て、このモデルに到達したという点で一致している。