
世界中が新型コロナウイルス感染症への対応に追われる中、感染拡大の防止に効果的な施策を打ってきた国がある一方、欧米諸国の対応は後手に回っている。イタリアは特に甚大な被害を受けており、その要因には不運と呼ぶべきものもあるが、指導者たちの判断ミスも否めない。本稿では、未曾有の危機を正しく認識して適切に対処するために、イタリアの経験から学ぶべきいくつかの教訓を示す。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応に追われる世界の政策当局者たちは、未知の領域に身を置いている。
中国、韓国、シンガポール、台湾などが感染拡大を食い止めるためにどのような対策を実行してきたかは、たびたび紹介されてきた。しかし残念ながら、欧米の多くの国では、初期の封じ込めにはすでに失敗しており、対応が後手に回っている。
欧米諸国は、新型コロナウイルス感染症の流行が大惨事に至ったイタリアと同じ失敗を繰り返しているケースが多い。本稿では、米国と欧州の中央政府と自治体の政策当局者が、イタリアの過ちから学ぶべき点を紹介したい。これらの教訓は、猛烈な勢いで広がり続ける未曾有の危機を正しく認識し、適切に対処するうえで役に立つだろう。
イタリアで最初の感染者が確認されたのは、2月21日。その約1ヵ月後の3月22日には、政府が人の移動を全土でほぼ禁止し、必要不可欠な産業以外の生産活動も停止された。きわめて短い期間に、前例のない災厄の直撃を受け、途方もない数の人命を失い続けたのだ。これは、イタリアにとって第二次世界大戦後で最大の危機と言ってよいだろう。
感染の流行が始まったタイミングなど、イタリアが経験した危機のいくつかの側面は、「不運」以外の何物でもない。政策当局者たちに、それをすべてコントロールしろと言うのは無理がある。だが、指導者たちが脅威の深刻さを正しく認識できず、一貫した対策を立案し、初期の成功、そしてそれ以上に失敗から学べなかった面があったことも否定できない。
見落とせないのは、自国とは異なる感染封じ込め策が中国などで功を奏していることが明らかになったあとも、このような状況が変わらなかったことだ。つまり、どのような措置を講じるべきかが不明だったわけではない。すでにある情報を素早く吸収して、それに基づいて行動できなかったこと、それがイタリアの問題だったようだ。
以下では、イタリアがそのような状況に陥った理由――それは、危機が進行している間にリアルタイムで意思決定することの難しさと関係がある――と、その失敗を繰り返さないための方法を紹介したい。