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新型コロナウイルス感染症の拡大により、世界中で多くの企業が甚大なダメージを被っている。コロナ危機は、組織が単一のビジネスに依存することの脆弱性を浮き彫りにしたと同時に、ビジネス・エコシステムを構築する企業の競争優位性を高めている。本稿では、中国平安保険の事例から、その意義を明らかにする。


 ほとんどの企業にとって、新たな収益源の開拓に向けたビジネスモデルの変更は、すぐにできることではない。

 異なる複数の企業活動が、標準業務手順を通じて相互に連動している。社内のオペレーションを変更するコストも高くつく。結果的に、既存のビジネスモデルはピラミッドに似ている。つまり頑強で立派な見栄えでも、柔軟性に欠け、脆弱なのだ。

 独自の物的資産を持つことで競争優位を築いている企業は、新型コロナウイルスによって、その脆弱性を浮き彫りにされた。航空会社や客船運航会社などがその例だが、製造業や伝統的な小売業も該当する。一部の製造業者は、医療用品(サージカルマスク、手指消毒剤、人工呼吸器など)の生産に素早くシフトできたが、その優位はごく一時的なものだ。

 とはいえ、もっと迅速に動ける業態もある。ボーダーレスな世界で競争している十数社ほどの企業が、ここに含まれる。

 一例として、アリババグループについて考えてみよう。同社が有するのは中国最大のネット販売事業だけでなく、世界最高の評価額を誇るフィンテック企業(アント・フィナンシャル)、世界規模の物流ネットワーク(ツァイニャオ〔菜鳥網絡〕)、ヘルスケアの巨大なデジタルプラットフォーム(アリババヘルス)、クラウドコンピューティング事業(アリババクラウド〔阿里雲〕)、その他にも多くの業界に傘下企業を持つ。

 また、日本のリクルートホールディングスも同様だ。求人広告事業から始まった同社は、やがて旅行、飲食店、教育、中古車販売、決済システムなど、幅広い分野に展開する企業グループへと成長した。

 アリババグループやリクルートのような企業は、変わりゆく顧客基盤に自社のサービスを絶えず適応させるために、協業、投資、提携を行い、それによって競争優位を生み出している。

 これを「エコシステムの優位性」という。この種の企業――米国のアマゾンや、中国のJD.com(京東商城)なども含まれる――は2020年3月、さらなる成長に向けて、新たな従業員を迅速に追加採用する様子が見られた。