不安を直視することで事態は好転する
ある成長著しいスタートアップ企業のCEOが、最近借りたばかりのオフィスにいる。混雑時間帯であるにもかかわらず、外の通りは静まり返り、ドアの向こうに見える600人分の仕事スペースにも誰もいない。昨日リーダーシップチームとともに、当面の間、全従業員を在宅勤務にするという、重要だが苦渋に満ちた決断を下したばかりである。いまから30分後には、従業員たちを安心させるために自身が主催するオンライン会議に臨まなくてはならない。しかし、不安で意気消沈し、怖くてたまらない。
このような光景は、新型コロナウイルス感染症の危機と経済活動の停滞を受けて、数カ月前から世界中至るところで見かけるものだ。創業者、経営幹部、マネジャー、そして従業員も、自分たちが築き上げたものすべてがほぼ一夜にして、いかにもろくなったか、目の当たりにしている。
筆者の夫は3月のある晩、「臆病風に吹かれているが、頼りにしてくれているみんなにそれを知られるわけにはいかない」とつぶやいた。彼は、その直前までオンライン会議システムのZoomを使った会議に臨み、「危機は克服できる」と何時間もかけて部下や同僚への説得を試みていた。平静を装っていたはずだが、内心では恐怖に震えていたのだ。