全世界で1万人のジュニア・マネジャーを戦略的に育成する

 戦略を具体化しようとする時、ジュニア・マネジャーの存在を軽んじてはならない。BPグループの場合、これらジュニア・マネジャーは、ガソリン・スタンドの監督、化学プラントや製油所で働く作業員たちの管理、掘削基地での作業手配などの仕事に従事している。10人以上を見ている人もいれば、R&D、マーケティング、人事など、数人の部下を抱える人もいる。

 ジュニア・マネジャーは、大勢の顧客や従業員との関係について日常的に責任を担っており、ある意味それは社内でいちばん重いといえる。ハーバード大学教授のリンダ A. ヒルはBecoming a Managerのなかで「ジュニア・マネジャーは、品質、サービス、革新、財務実績維持の要」と言っている。

 しかし、ジュニア・マネジャーを対象に、質の高い研修プログラムを企画するのも、またこれを継続するのも難しい。その研修プログラムは1日か2日のセミナー形式がほとんどで、研修を受けて現場に戻った後のフォローアップはほとんどない、あるいは皆無に等しい。しかも、たいてい現地の人事部が研修を企画・運営する。対象者を決めるのは各地域を統括している責任者であり、彼らの主観的評価といった、戦略とは無縁の基準による。

 このようなわけで、参加したジュニア・マネジャーの潜在能力の大部分は手つかずのままでいる。これは全社的な損失といえる。全世界で事業を展開し、10万人以上の社員を抱える石油・エネルギー会社、BPが直面した問題もまさにこれだった。BP経営陣はジュニア・マネジャーたちの存在意義を認識していた。なぜなら、70~80%の社員がこれらジュニア・マネジャー直属の部下だからである。

 彼ら彼女らの年齢は25~40歳、詳細な人数ははっきりしないが、およそ1万人いた。その所属は、スペインのソーラー・プラントから北海の掘削基地、シカゴのマーケティング・チーム、中国のガソリン・スタンドまでさまざまである。

 また、民族的あるいは文化的な背景、学歴やキャリア、仕事観や会社観、人生観も多種多様である。しかも、往々にして彼ら彼女らの判断次第で、売上げやコスト、品質、安全性、イノベーション、環境性能に大きな差が生じていた。それだけではない。ジュニア・マネジャーたちはアリの一穴をも見逃さないように求められていた。

 ところが、BPにはこれらジュニア・マネジャーたちを対象とした総合的な研修プログラムが整備されていなかった。それどころか、彼ら彼女らには正式な呼称すら決まっておらず、経営陣を別にすれば、マネジャー層は6段階以上に分かれていたため、社内用語では「レベルG以下のマネジャー」となっていた。

 ジュニア・マネジャーたちが何か疎外感を感じていたのも無理からぬことだった。何しろ、個人の判断がBP全体の成長や評価にどのように貢献しているのか、ほとんど実感できない。

 チームを率いる立場に昇進したものの、「部下をどのように管理したらよいのか」「査定はどうしたらよいのか」「ストレスの大きいテーマはどのように話したらよいのか」といったことはもとより、「だれに助言を求めたらよいのか」すら、きちんと指示されていなかった。