
医師や宇宙飛行士のように、失敗した時のリスクが高い仕事の世界では、学習ツールとして仮想現実(VR)を取り入れてきた。現在では、その導入コストが劇的に低下したことで、一般企業でも活用され始めている。VRは企業研修をどのように変えるのか。本稿では、3つのケーススタディをもとに、その可能性を探る。
兵士や外科医、宇宙飛行士は何十年も前から仮想現実(VR)でトレーニングをしている。学習の効果が高まるのは、実際に自分でやったり、失敗に対するフィードバックを受けたりする時である。そのため、冒頭に挙げたようなリスクの高い職種でVRが活用されるのは当然だろう。
しかし、ここ数年間でVRの導入コストは劇的に下がり、フォーチュン500社では以前より一般的に研修で利用されるようになった。特に小売業や運輸業、カスタマーサービスのような業種では、従業員がVRヘッドセットをつけて仕事をうまくこなせるようにトレーニングを受けている。
本稿では、従業員研修の3つのケーススタディに焦点を当てる。物理的な作業手順を学ぶ研修と会話の「ソフトスキル」を学ぶ研修、そして企業文化を学ぶ研修である。
3つのケーススタディはすべて投資に見合う結果を出しており、それぞれのケースに数千人もの従業員が関わっている。これは、VRに関する学術研究では前代未聞のサンプルサイズである。
いずれも、VRを使った没入型学習プラットフォームを提供する企業ストライバー(Strivr)が指揮した[開示事項:筆者はストライバーの共同創設者で、本稿に挙げた事例は同社のクライアントに関するものである]。
作業手順をより効率よく学ぶ
作業手順のトレーニングに関する学術研究は数多くあり、メタ分析を含む文献も充実している。VRによる外科手術トレーニングを他のトレーニングテクニックと比較しているものもある。
一般に、VRによるトレーニングは実地での対面型トレーニングと同等の効果があり、費用を節約できるか、従来の方法よりもトレーニングにかかる時間を短縮できることが研究で確認されている。現在のトレンドは、この学術研究が広範に適用されていることの表れである。
最近の例として、ウォルマートが100万人以上のアソシエイト(同社で働く人)を対象にVRで研修を行ったことが挙げられる。最もよく使われる研修モジュールの一つが「ザ・ピックアップタワー」である。ピックアップタワーとは、顧客がオンラインで注文した品物を受け取る際に使う大型マシンを指す。研修を受けるアソシエイトは、この新しいマシンの操作方法をステップごとに習い、間違えるとフィードバックをただちに得られる。
VR導入前は各アソシエイトが特定の店舗内に終日こもり、実地とeラーニングを組み合わせた研修を受けていた。ところが、VRの研修では効果を同等に保ちつつ、所要時間は8時間から15分に圧縮された。全米のウォルマートで働くアソシエイトがザ・ピックアップタワーの研修を受ける必要があることを考えると、VRのおかげで100万日分の労働時間を短縮できることになる。
ウォルマートのコンテンツデザイン・開発部門のシニアディレクターであるヘザー・ダーツキが言うように、「費用をどれだけ節約できたかは自明である」。