
コロナ危機を乗り越えるために昼夜を問わず必死に働き続けた結果、従業員が燃え尽き症候群に陥るリスクはいっそう高まっている。デジタルトランスフォーメーション(DX)が進み、リモート環境でも仕事を問題なくこなせる状況が現場を苦しめているのだ。アフターコロナのDXが組織に望ましい成果をもたらすには、従業員とのつながりを深めて、彼らを中心に据えた戦略を構築する必要がある。
2020年3月のパンデミック到来を受け、多くの企業では現場・前線から経営トップまで、全員が消火態勢に入り、長期的な計画と戦略が吹き飛んだ。
リモート技術を活用して昼夜なく働いた人もたくさんいる。克服すべき新たな課題と障害が毎日のように生じ、たびたび消耗させられてきたことだろう。その結果、この6カ月間が6年のように感じられた人も多いはずだ。
このペースは持続可能ではない。リーダーはコロナ禍が突きつける新たな現実への対処法を学びながら、組織を時速200マイルで走らせる必要があったのかもしれない。しかしいま、それが従業員を深刻な燃え尽き状態にさせるリスクとなっている。ある調査によれば、従業員のストレスと疲れは警戒すべきレベルに達しており、米就業者がうつ病になる可能性はコロナ禍によって102%上昇したという。
これは組織にとって重大な脅威となりつつある。すでにレイオフ(一時解雇)や事業縮小を余儀なくされている場合でも同様だ。
ここには次のような矛盾がある。多くの組織は、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進して新たな効率性を手に入れている。従業員をリモートで稼働させ続けるために、ズームのような技術を活用するなどもその一環だ。
しかし現在、企業は最も優秀な人材を失うリスクに直面している。彼らの多くは、この新たなデジタルの職場環境で孤独と意欲喪失を感じているのだ。コンサルティング会社KPMGによる最近の調査では、人材の喪失はいまや組織にとって最大のリスクとなっている。
したがっていまこそ、自社のデジタル戦略を人材の観点から見直すべき時だ。量子コンピューティングやIoT(モノのインターネット)、人工知能といった新技術をただ導入するのではなく、それらの技術をどう使えば、従業員がもっと意欲的に仕事と関われるようになるのかを考えるのだ。
また、足元から視点を上げて先を見据え、長期戦略を再検討すべき時でもある。技術投資の成果を最大限に引き出すには、リーダーは一時停止ボタンを押し、その技術によって達成したい目標に従業員の意欲をどう結びつけることができるかを、もっと考えるべきだ。