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意思決定を下す際、人間の直感が重要な役割を果たすことはある。しかし、人工知能(AI)の登場で直感が万能ではないことが明らかになったにもかかわらず、その力を過大評価し続けるリーダーは多い。ビジネス上の問題を迅速かつ適切に解決するためには、人間とAIそれぞれの優れた点を把握し、分担することが不可欠だ。本稿では、因果推論の3つの段階に着目し、両者の協働のあるべき姿を論じる。


 ビジネスリーダーはしばしば、自身の直感的な意思決定を誇りとする。部長やCEOになれたのは、リーダーシップ要件をいくつか並べたチェックリストに機械的に従ったからではない、というわけだ。

 たしかに直感と本能は、リーダーシップにおける重要な手段となりうる。しかし、見境なく適用しても役には立たない。

 人工知能(AI)の発展によって、経営意思決定層の間で長らく重視されてきた資質の欠陥が浮き彫りになった。かつて先見の明による行動とされていたものが幸運にすぎず、これまで神聖視されていた意思決定原則には根拠がなく、揺るぎない信念が近視眼によるものであったことを、アルゴリズムが露わにしたのだ。

 人間による昔ながらの意思決定手法に欠陥があることは、アクティブ運用型の投資ファンドを考えてみるだけでわかる。多くが著名投資家によって運用されるこれらのファンドは、ごくわずかな例外を除き、長期的にはインデックスファンドよりもパフォーマンスが悪く、人間よりもAIのアルゴリズムによる取引のほうが、一般的にパフォーマンスが高い。

 AIが直感的意思決定に取って代わることは、すぐにはないだろう。しかし、経営者はAIの能力を最大限に活かすために、みずからの意思決定スタイルを変革する必要がある。強い思い込みをデータによって緩和し、考えを実験によって検証し、AIを導いて正しい問題に取り組ませることが求められるのだ。

 運用マネジャーは、最優良株ではなく最良のアルゴリズムの選択を学ぶ必要性に気づき始めた。あらゆる分野の経営者も同様に、自己変革につながる選択を迫られることになる。すなわち、機械を動かすことを学ぶか、自分が機械に取って代わられるか、である。

因果関係のはしご

 特定種類の問題の解決において、人間よりもAIが優れているのはどんな点だろうか。経営者がテクノロジーと接するうえで、それはどう役立ちうるのか。以下で見ていこう。

 AIは近年、ポーカーやチェス、ジェパディ(クイズ番組)、囲碁などの世界チャンピオンを打ち負かしてきた。このことに驚きを覚える人は、これらのゲームに勝つために機械的暗記と数理論理学がどれほど必要かを過小評価している。そしてポーカーとチェスに関しては、人間の振る舞いに関する洞察の役割を過大評価している。

 カーネギーメロン大学のコンピュータサイエンティストであるツォーマス・サンドホルムは、世界トップクラスのポーカープレーヤーたちを破ったAIの「リブラタス」を生み出した人物だ。

 彼の説明によれば、このアルゴリズムの大部分は確率を予測する機械であり、対戦相手の振る舞い――フェイントや癖など――の研究は、勝つために不要であることがわかったという。

 ゲーム理論と機械学習を適用し、単に確率を考慮しながらプレーするだけで、リブラタスは相手を打ち負かした。ポーカー大会という場であっても、確率の法則に関する理解は、対戦相手の振る舞いを読むよりもはるかに重要なのである。

 どんな種類の問題をAIに任せるべきか。経営者の(適切に変革された)思考のほうがうまく解決できる問題はどれか――。つまりはこれを把握することが、意思決定者とAIとの協働を最適化するカギとなる。

 その指針となるのは、高名なコンピュータサイエンティストのジュディア・パールによる研究だ。パールは「因果関係のはしご」(Ladder of Causation)を考案したことでも知られる。これは推論的思考の3つの段階を表わすものであり、自己変革という私たちの目的を実現するための行程となりうる。

 パールは著書The Book of Why(未訳)で、「機械は生データから説明を導き出すことはできない。後押しを必要とする」と述べている。

 因果関係のはしごの1段目は、関連付け(association)による推論だ(もしAならば、Bになる)。次は介入(inference)による推論(インプットXを変えたら、アウトプットYに何が起こるか)。最後は反事実(counterfactuals)の適用による推論、つまり直観と相容れず事実と異なるように思えるが、新たな洞察につながる構成概念である。