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デジタルトランスフォーメーションとは何を意味するのか。組織として明確な答えを持ち合わせていない企業が多く、適切なリソースが投入されなかったり、間違ったKPIが用いられたりした結果、変革の取り組みが失敗に終わることは珍しくない。筆者らによると、デジタルトランスフォーメーションには、それを支える4つの柱が存在するという。自社のデジタル成熟度を見極め、段階に応じて取り組みを進化させることが、変革を成功に導くうえで欠かせない。


 長年、議論されてきたにもかかわらず、既存企業にとってデジタルトランスフォーメーション(DX)が何を意味するのかを理解するのは、相変わらず困難だ。

 デジタルトランスフォーメーションを担当するリーダーは、IT、マーケティング、営業、オペレーション部門から寄せられる矛盾した要求によって、身体を四方八方に引っ張られているような感覚を味わっている。デジタルトランスフォーメーションを明確に理解できていないために、適任ではない人物が責任者となり、間違ったリソースを投入し、間違ったKPI(重要業績評価指標)が用いられることで、取り組みが失敗に終わるケースも少なくない。

 この混乱を乗り切るカギは、デジタルトランスフォーメーションを単一の事象ではなく、業界やデジタル成熟度に応じてゴールが異なる、多面性のある旅としてとらえることだ。

 かつてコンピュータを導入したことで、私たちのコンピュータに対する認識は「組織の片隅で狭い範囲のタスクを担当するデバイス」から「多様なタスクを多様な方法で実行できるデバイス」へと進化せざるをえなかった。

 デジタルトランスフォーメーションについても同じように、一枚岩の概念から、組織のさまざまな部門で実行される異なる取り組みを指す、という考え方に進化すべき時期を迎えている。そうすることで、どの種類のデジタルトランスフォーメーションについて語っているのかが明確になり、それに応じた計画を立てることが可能になる。

 本稿では、デジタルトランスフォーメーションに取り組む企業を対象とした筆者らの共同研究に基づき、混乱や矛盾した要求を乗り切るための単純化されたフレームワークを紹介する。このフレームワークでは、今日見られるデジタルトランスフォーメーションの4つの柱を概観する──ITの強化、オペレーションのデジタル化、デジタルマーケティング、そしてデジタルビジネスである。

 この4つはどれも、大半の企業の「デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー」に組み込まれている。しかし、4つの違いを理解しなければ、次に何をすべきか、どのように投資すべきかを考える際に混乱が生じる。

 成功に必要なリソースとツール、目標、スポンサーとなる経営幹部、KPIは、4つの柱ごとにまったく異なる。それぞれに必要なものの違いを明確にすることで、賢く折り合いを付けながら確実に前進することができる。

 以下に、4つの柱と、成功につながる適切な投資の方法を概説する。どの柱からスタートするのが適切かは、あなたの会社の状況やニーズだけでなく、デジタル成熟度によっても異なる。

 デジタルトランスフォーメーション・ジャーニーの出発点として、1つ目に紹介する柱から着手するのが典型的なパターンだが、デジタル成熟度が高い場合は、次々に新たな柱に取り組むケースもある。