
多くの企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んでいるが、必ずしも成功した例ばかりではない。実績あるリーダーが牽引し、莫大な投資をしたにもかかわらず、なぜ頓挫してしまうのか。ダベンポート氏は、テクノロジーに対する過度の期待や、先端的取り組みに対するメディアからの称賛が、経営者を間違った意思決定に向かわせると指摘する。
ゼネラル・エレクトリック(GE)は2011年、自社の製品とサービスをデジタルによって変革するという野心的な取り組みに乗り出した。
同社は素晴らしいデジタル能力を構築し、みずからを「デジタル・インダストリアル・カンパニー」と称した。多くの製品にセンサーを埋め込み、IoT(モノのインターネット)に対応する新型ソフトウェアの巨大なプラットフォームを立ち上げ、自社の工業製品・サービスのビジネスモデルを変革した。
GEはさらに、セールスやサプライヤー関係など内部プロセスの変革にも着手。そして一部の業績評価指標、たとえばサービスの利幅などが向上し始めた。同社のトランスフォーメーションは、マスコミで絶賛された(そこには筆者らが書いた記事も複数含まれる)。
ところが、投資家たちはこのトランスフォーメーションを認めていないようであった。GEの株価は何年も停滞し、デジタル変革の野心を強く推進してきたCEOのジェフリー・イメルトは、物言う投資家からの圧力を受け、2017年に同社を去る。他の上級幹部らも後を追った。新CEOのジョン・フラナリーは、もっぱらコスト削減に注力している。
大規模なデジタルトランスフォーメーションの取り組みの最中、業績面の問題に直面し、予想外の早期に経営者が退任する――このような会社は、GEの他にもたくさんある。
レゴは先頃、バーチャル上でブロックを組み立てる「デジタル・デザイナー」プログラムへの出資を取りやめた。ナイキは2014年、活動量計NIKE+ FuelBandを含む一部取り組みへの投資を打ち切ることで、デジタル部門の規模を半分にした。プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)は2012年、「地球上で最もデジタルな会社」になろうと望んだが、景気低迷の中で成長難に直面した。
バーバリーは、世界で最もデジタルに秀でた高級ブランドになることを目指したが、業績は初期に上向いたものの、その後は落ち込み始めた。フォードはデジタル施策に巨額の投資をしたが、社内の至る所でコストと品質の問題が発生し、株価の出遅れに見舞われた。
これらの企業は膨大な資金を費やして、デジタルの製品、インフラ、付属アクセサリを開発し、メディアと投資家から大きな注目を浴びた。しかし結局、業績面での大きな課題と、往々にして株主からの反対に直面するという結果に終わっている。
P&Gの当時のCEOボブ・マクドナルドは、取締役会から退任を求められた。フォードのCEOマーク・フィールズも同様だ。レゴとバーバリーでは、デジタル施策を主導したCEOは降格された。