
多くの企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)に莫大な資金を投じているが、期待通りの効果を上げられているとは言い難い。DXの定義すらあいまいなまま、最先端のテクノロジーだけを導入しても、組織が生まれ変わることはないのだ。本稿では、DXを実現するうえで不可欠な5つの要素を明らかにする。
デジタル革命により、すべての組織が自己改革を余儀なくされた。あるいは少なくとも、ビジネスのやり方を考え直すよう迫られた。
ほとんどの大企業は、一般的に「デジタルトランスフォーメーション」(DX)と称されるものに莫大な現金を投じてきた。それらの投資は2023年までに6兆8000億ドルを超えるとの推計もあるが、往々にしてメリットや投資対効果が明確でないまま行われている。
そのような過ちには複数の原因があるものの、DXの計画をうまく実行するために必要な、諸々の工程や段階を軽視した結果である場合が多い。よくある過ちの例として、単に技術を買えば――あるいは成長著しいテック市場の高価なツールや最新鋭の機器に投資さえすれば――何らかの形で組織は変わるだろうという浅い考えがある。どれほど優れたテクノロジーでも、それを活かすための適切なプロセス、組織文化、人材が整っていなければ無駄になる。
スタンフォード大学経営大学院のエリック・ブリニョルフソン教授が述べたように、人工知能(AI)を含む新規テクノロジーが生産性の向上をもたらさない大きな理由は、スキルに投資できていないこと、特に既存の従業員のリスキリングとスキルアップが足りないことである。
筆者はかつて、祖父に携帯電話を買うよう何とか説得しようと試みたが、彼はそれを箱から取り出そうという気さえ起こさなかった。多くの組織において、ベテラン社員やシニアマネジャーに新しいテクノロジーツールを取り入れるよう説得するのは、これと似たような経験を伴う。
デジタルトランスフォーメーションとは何を意味するのか――それに対するビジョンはおろか、明確な定義さえないまま企業が計画に着手すると、問題が生じる。
組織は一つひとつが異なり、業態や業界、文化によって顕著な違いもあるだろう。とはいえ、DXの根本的な意味は、古いテクノロジーを新たなものに置き換えることではなく、大量のデータを獲得することでもない。大勢のデータサイエンティストを雇うことでもなく、グーグルやアマゾン・ドットコムのやり方を部分的に真似ることでもない。
実際には、DXの本質とは、データドリブンな組織になり、重要な意思決定、アクション、プロセスに強く影響を及ぼすのが人間の直感ではなく、データから導き出された洞察(インサイト)であるように万全を期すことだ。言い換えれば、人々の行動と、自社において物事を遂行する方法を変えられてこそ、初めてDXが達成されるのだ。