(4)アクション

 ただし、洞察の段階にたどり着いても十分ではない。実際、それらをアクションへと落とし込む確実な計画がなければ、どれほど興味深く、魅力的で、好奇心をそそる洞察であっても無駄になる。

 トロント大学ロットマンスクール・オブ・マネジメント教授のアジャイ・アグラワルと共著者らが論じているように、AIやデータサイエンス、アナリティクスがいかに優れていても、予測に基づいて何をするかを決めるのは、私たち人間の手に委ねられている。

 たとえば、特定のタイプのリーダーは道を踏み外す傾向がより強いという洞察があるとして、自社の採用と能力開発のプロセスをどう変えるのか。顧客が特定の製品を嫌っているという洞察が得られた場合、それは自社の製品開発とマーケティング戦略にどのような影響をもたらすのか。一部の顧客が競合他社に流れる可能性があるかを自社で予測できるとして、いかに対処するのか。

 AIは予測を立てることができ、データは洞察をもたらすことができる。しかし、「だから何なのか」の部分ではアクションが求められ、それらのアクションには適切なスキル、プロセス、変革マネジメントが必要となる。これこそDXを可能にするうえで、人材が非常に重要な役割を果たす理由だ(また、DXを阻害するのもまさに人である)。

(5)結果

 工程の最終段階では、結果やインパクトを検証できる。ただし、これは本当の最終段階ではない。結果を検証した後、(2)のデータに戻る必要がある。結果はそれ自体が新たな、より豊かなデータセットの一部となり、検証による発見を通じてそれらのデータは拡張され、向上していく。

 この反復的なプロセス、つまり遡及的なフィードバックループによって、予測性の高い、有意義で貴重な洞察が導き出せるようになり、それがデータにさらなる価値をもたらす。このプロセスを通じて、人間とテクノロジーの大きな相乗効果を生むために必要な人材のスキルを強化・育成することにもなる。

 要するに、デジタルトランスフォーメーションで肝心な部分は「デジタル」ではなく、「トランスフォーメーション」なのだ。

 私たちの世界は、過去20年で劇的に変わった。それらの変化に自社を適応させることは、一夜では達成できない。また、単に新規テクノロジーを買ったり、より多くのデータを集めたりすれば達成できるわけでもない。

 必要なのは、意識と文化と人材の変容だ。これには、従業員へのスキルアップとリスキリングを通じて未来に備えさせることも含まれる。

 とはいえ、変わっていないものが一つある。上記はすべて、人類史上どのリーダーも常に直面してきたものであり、古くからある課題や挑戦の新しい形にすぎないという事実だ。すなわち、チームと組織を未来に備えさせ、よりよい未来を築くことである。

 責任を担う立場でありながら物事を現状のまま維持する人は、真のリーダーではない。リーダーシップとは常に、過去や伝統に対して議論を戦わせることであり、過去と未来の間に橋を築くことはリーダーの極めて重要な任務である。

 その意味ではデジタルトランスフォーメーションも例外ではなく、現代の橋に、私たちが付けた名前なのだ。


"The Essential Components of Digital Transformation," HBR.org, November 23, 2021.