下図が示すように、組織のDXを実行するには5つの要素が必要となる。
(1)人
デジタルトランスフォーメーションは人から始まる。このことは、データについて(貴重なデータについては特に)議論する際、その向こう側には人間がいることを思い出すためにも有益だ。ほとんどの組織にとって、DXの人的側面とは消費者、顧客、従業員へのアクセスを意味する。
従来、これらの関係から生まれる記録は未整備あるいは分散していた。トルコのバザールにある屋台のような、アナログで個人が営む小規模事業を考えてみよう。売り手は顧客と取引先に関するアクセスと知識をたくさん持っているが、それらはすべて彼らの脳内に閉じ込められている。
同様に、ロンドンのタクシー運転手や、パリのレストランのウェイターも、自分の顧客とそのニーズについて深い知識を持っているかもしれない。小規模事業の創業者は、テクノロジーやデータに頼らなくても、自社の労働力を構成する社員20人についてよく知っているかもしれない。
しかし、顧客や社員を個人的に把握できる範囲を超えて、組織が大規模で複雑になった場合、どうなるだろうか。
(2)データ
格段に複雑かつ不確実な環境で、顧客と従業員に関する自分の知識を拡張し、巨大な組織全体でそれを複製したいとなれば、データを持つ必要がある。広範囲からのアクセスと検索が可能な、消費者、従業員、顧客とのやり取りに関する記録だ。
この部分、つまり人に関するデジタル記録(行動や身元や嗜好など)を獲得・生成する段階で、テクノロジーは最大のインパクトを及ぼすことができる。これは「デジタル化」、または人の行動をデータ化するプロセスと呼び、統一された信号(0と1)に変換する。
この点に留意しておくことは有益だ。なぜなら、テクノロジーの真のメリットは「ハード面」(例:システムやインフラが安価になる)ではなく、「ソフト面」(例:貴重なデータの獲得)にあるからだ。
(3)洞察
データは新たな石油ともてはやされているが、それをクリーンにして精製し、インパクトのある何かに注入できるか否かでその価値が決まる点も石油と同じである。モデルやシステム、フレームワーク、信頼できるデータサイエンスがなければ、いかなるデータも単なる0と1の羅列にすぎず、役に立たない。
ただし、適切な専門知識とツールがあれば、データは洞察へと変わりうる。この工程では、テクノロジーからアナリティクス――データに意味を与えるために役立つサイエンス――に移行する。有意義な洞察、ストーリー、何がなぜ起きているのかを示す概念、すなわちモデルがあれば、そのモデルを予測によってテストできるようになる。
その際に大事なのは、正解を出すことではなく、上手に間違えるための方法を見つけることだ。どんなモデルでもある程度は間違っているものだが、他に比べて有用なモデルはある。