●新規事業
最後に、デジタルトランスフォーメーションは、既存企業に多くの新たな機会をもたらしてくれる。
そのようなチャンス(なかには破壊的なものもあるかもしれないが)をとらえるには、イノベーションとデジタル技術の両面の開発を進め、新たな成長源を試して軸足を移す必要がある。デジタルトランスフォーメーションは新たなビジネスモデルと、新たな製品やサービスを生み出す機会をもたらし、さらに大規模なエコシステムと連携するこことで、成長の新たな源泉を生み出す力さえ秘めている。
一般的に、このような取り組みを主導するのはCEOやセールス責任者だ。なぜなら、投資、敏捷性、そして何よりも重要な要素として、新たなビジネスチャンスを検証するための実験を実行可能なチームが必要だからだ。その結果、新たな収益源が得られる。ただし、KPIはより繊細な要素からなり、通常は顧客の重大な問題を解決し、収益性の高い成長を実現するために作成したユニットエコノミクスの指標が使われる。
このようなビジネスチャンスは大半の企業の手元にあるが、そのチャンスをつかむには、ITの強化とオペレーションのデジタル化の柱よりも高度なデジタル成熟度が求められる。
たとえば、筆者らが調査したある大手リテール銀行は、交通(ライドシェア)やコンテンツ配信(音楽、テレビ)、eヘルス、小売市場をはじめ、多種多様な業界に参入してきた。
この変革の責任者は初代の副CEOで、イノベーション能力の極めて高い人材を集めたチームを結成し、新規事業を一つひとつ試しながら構築していった。また、デジタル化を担う機能部門の一環として、エコシステム全体のデジタル化を担当する経営幹部と、さらに、その結果生まれるエコシステムの構築・保守を担う別部門にも経営幹部が配置された。
各事業の成否を判断するために、この銀行は中核となる金融サービス事業の顧客維持率を高める力を慎重に分析しているが、それ以上に重要なのは、新規事業について、1日/1カ月当たりの平均ユーザー数、エンゲージメント、クロスセリングの機会などを測定することだ。
デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー
デジタルトランスフォーメーションに携わった人は皆、それを「旅」だと表現する。デジタルトランスフォーメーションは時間がかかり、進化の連続であり、時には破壊的な段階が続く。いかなる旅にも当てはまることだが、まずは行き先を決める必要がある。
典型的なのは、ITの強化とオペレーションのデジタル化から始めて、次にデジタルマーケティングと新規事業の構築に取り組むという順序だ。しかし、デジタルトランスフォーメーションにとっては4つの柱すべてが重要であり、別の順序もありうる。
成功のカギは、デジタルトランスフォーメーションを単一の事象ではなく、多くの異なる要素で構成されると、明確に理解することだ。4つの柱それぞれを目指す旅にとって適切なリーダーとリソース、成功の尺度を持つことが、成功の秘訣となるだろう。
"The 4 Pillars of Successful Digital Transformations," HBR.org, January 28, 2022.