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お粗末なCEOの選抜
「幸福な家庭はどこもみな同じ」とはレフ・トルストイの言葉である。我々は、リーダーはだれもみな同じなどと考えてはいないだろうか。
ことCEOのリーダーシップについては、一人ひとり個別に検討すべき問題である。なぜなら、その能力は範囲も中身も異なれば、その仕事は比べものにならないほど重要だからである。CEOの能力はその企業の命運を左右し、ひいては経済全体にも影響を及ぼす。我々の生活水準は企業の最上層の優劣にかかっているといえる。
企業の安寧を守る経営陣にとって、CEOの選任は永遠の、そして最優先の課題である。これに異議を差し挟む者はいまい。時間の経過、あるいは試練によって状況は変わっていく。組織は現在の、そして将来のニーズについて明確な視点を持ち、慎重に候補者となる人材を複数育成しておかなければならない。
しかし現実には、そのような準備は十分とはいえない。北米におけるCEOの後継者育成プロセスはほぼ崩壊しており、北米以外でもさして状況は変わらないというのが実態だ。NACD(全米取締役協会)によると、売上高5億ドル以上の企業のうち、後継者育成プロセスが確立しているところは半数にも満たないそうだ。
また、プロセスはあっても、けっしてそれは満足のいくものではない。人材問題について研究しているCLC(企業リーダー評議会)が276社の大企業を対象に昨2004年実施した調査結果から、トップ・マネジメントの後継者を指名するプロセスに満足しているのは、回答した人事担当役員の20%にすぎないことが判明した。
この結果はけっして容認できるものではない。6、7年くらい在任していながら、資質を備えた候補者を育成せず、次のリーダーを選ぶプロセスも確立できなかったCEOや取締役会は失格である。だれもがゼネラル・エレクトリック(GE)のようなベスト・プラクティスを手本にしようと口では言うものの、真剣に取り組んでいるところはほとんどない(囲み「GE:『セッションC』の秘密」を参照)。
GE:「セッションC」の秘密
セッションCのことを知っている人は多い。それはGEで毎年実施されるリーダー候補者の資質と事業の方向性がどれくらい合致しているのかを見極める、対話形式の見直し作業である。
しかし、セッションCの詳しい内容について知っている人はほとんどいない。たとえば「タンデム評価」と呼ばれるプロセスは、GEがCEOの候補者選びに、あるいは出世を望む社員自身が自己評価するうえで利用される有力なツールの一つだ。
GEでは年1回、CEOや部門のリーダーになりうる人材を20~25人選び、各人の所属部門以外の人事責任者2人が個別面接を実施する。この面談は3~4時間に及び、面接官は、候補者がどこで育ち、両親がその人物の考え方にどのような影響を及ぼしたのか、幼年期の価値観はどんなものだったかといった候補者の生い立ちから、最近の業績までをたどる。
その後、360度評価、膨大な参考資料の検討、上司、直属の部下、顧客、同僚との面談など、社内外にわたって徹底的に調査される。先のタンデム評価は、心理学的な分析をできる限り避け、計測可能な業績に着目する。
15~20ページの文書にまとめられた調査・分析作業の結果から、候補者の何十年にもわたる仕事ぶりと成長ぶりが浮かび上がる。候補者への賛辞のみならず、これからリーダーになろうとする者が改善すべき点についても細かく指摘されている。文書を渡された候補者は、これを参考に自分の資質をさらに伸ばしていく。
さらに報告書は、各人の所属部門の責任者と人事担当者、GE本社にも配布され、会長、バイス・プレジデント3人、そして人事担当シニア・バイス・プレジデントのビル・コナティらが熱心に目を通す。
「この報告書を読むのは仕事が終わってからです。何しろ報告書を一つ読むだけで1時間やそこらはかかりますからね。でも、候補者について思いがけない発見があり、実に興味深い」とコナティは言う。
タンデム評価は徹底した内容であり、トップに近い者しかその対象とならない。しかしGEでは、各部門がこの評価方式の簡易版を用いることを奨励している。
この評価方式は、リーダー候補者を映す鏡の役割を果たすばかりか、彼ら彼女らをサポートするネットワークを拡げる働きもする。候補者が所属する部門外の人事担当者2人を起用することで客観性が保たれ、前途を嘱望される候補者は、2人のよき相談相手を通して、二通りの新しい視点が身につく。
コナティいわく「これからの仕事で何かおかしいと感じるような事態に遭遇し、部外者の判断を仰ぎたいと思う時、この人たちに『だれもが素晴らしいと言いますが、いいことずくめではなさそうです。その点、どう思われますか』と相談できるのです」。
お粗末な後継者育成プロセスがもたらすのは、お粗末な業績にほかならない。その挙げ句、首のすげ替えが頻繁に行われ、企業はいつまで経っても不安定なままだ。しかも近年は、経営の透明性が増し、機関投資家の発言力も強まり、また活性化した取締役会がより声高に要求を出すようになっており、CEOの在任期間は短縮化されつつある。
ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンの報告によると、95年に9.5年だったCEOの在任期間は、世界全体の平均年数で7.6年にまで短縮した。しかも、HBR誌の2005年1月号に掲載されたダン・シアンパの"Almost Ready[注1]"によると、5社のうち2社のCEOは就任後、1年半しかもたないという。