人生100年時代を迎え、世界でも指折りの超高齢社会である日本――。「生」の定義が「Well-being(ウェルビーイング)」に置き換わる時代において、これまでリスクヘッジを担ってきた生命保険の役割も、大きく変化を求められている。長寿国であるが故に抱える社会問題を、日本がどのように解決していくかに世界から注目が集まる中、長生きをリスクにしないために生命保険が担う新たな役割とは何か。また、目指すべき将来像とは。
大きな変化を迎えた生命保険の役割
石川 日本の平均寿命は世界でもトップレベルで、人生100年時代に突入しています。人々の生活環境も大きく変化していますし、現在のコロナ禍も加わって、社会情勢は刻一刻と変わり続けています。保険業界も例外ではなく、人々が生命保険に求めるものも変わってきているのではないかと思います。
これまでの生命保険は、病気やケガ、もしくは死亡といった万が一のときに保険金で治療費や生活費をカバーするのが主な役割だと認識しているのですが、現状はどのように変化してきているのでしょうか。
高田 大きく変化していると思います。人生には「生・老・病・死」という4つの苦しみ、つまりリスクがあるとされていますが、これまでの生命保険は、「死亡」「病気」「老い(介護・貯蓄)」、この3つのリスクをカバーする商品を開発してきました。
しかし、人生100年時代となり、残る「生」の部分が大きな課題となっています。そしてこの「生」の定義も、単に生きているというだけではなく、健康で生き生きと、やりたいことをやれることが「生」であるというように認識が変化してまいりました。
石川 人生100年時代に入り、顧客がQOL(Quality of Life=生活の質)を意識するようになってきたことで、プロフィットプールが「生」にシフトした、ということですね。
高田 その通りです。「よりよく生きる」、あるいは「いかに生きるか」が課題であり、「身体的、精神的、社会的、経済的に満足された状態」が求められているわけです。われわれはこれをWell-beingと表現しています。そして人々はこのWell-beingのために行動し、選択し、ライフスタイルを積極的に追求するようになりました。
この価値観の変化は生命保険の役割の変化につながっていきます。従来のリスクヘッジだけのものからWell-beingの実現を手助けするものという位置づけに変わっていくと思います。
また世界でも突出した超高齢化社会である日本は、長寿国であるが故の社会問題も抱えています。それは平均寿命と健康寿命の差です。健康寿命とは、介護などを必要とせずに自立した日常生活を送れる期間のことですが、平均寿命とは男性で約9年、女性で約12年の差があり、その間は家族や事業者などからの支援が必要な期間になります。これは単に経済的な問題というだけでなく、労働力の問題、そして心の問題なども含んだ、非常に大きな社会問題です。これらの問題を日本がどのように乗り越えていくか、その取り組みに世界から注目が集まっています。
石川 確かにとても大きな社会課題であり、いわば日本が、世界のロールモデルとしての役割を求められていると言っても良いかと思います。超高齢社会において、「よりよく生きる」、Well-beingを実現するためにまず取り組むべき課題は何でしょうか。
高田 解決のキーワードは「健康」です。健康寿命を少しでも延ばすことが、Well-beingにつながります。ヘルスケア関連事業者や製薬メーカー、医療業界など多くの方々がすでにこの点に着目して、課題に取り組んでいます。
しかし、この問題の難しいところは、一朝一夕に解決するものではないことです。健康は長い時間をかけて育むものです。もちろん遺伝的要素もありますが、やはり生活習慣の影響が非常に大きいことが分かっています。全世界の死因の約6割は、4大生活習慣病(がん、糖尿病、循環器系疾患、肺・呼吸器系疾患)によるものといわれており、先ほどの健康寿命と平均寿命との差は、まさにこの延長線上にある話です。 この差をいかに縮めるか、あるいはリスクが起きたときにいかに最小化するかが重要です。