アクセンチュアが実施した最新の「グローバル消費者調査」によると、消費者の無関心化トレンドは継続しているものの、企業に対して「重要な社会的課題への明確な意思表示」を期待していることが明らかになった。こうした消費者を振り向かせるカギとなるのが、社会的価値や社会変革につながる、企業の「パーパス(目的・存在意義)」だ。実際、社会課題解決を志向した経営を実践する「パーパス・ドリブン企業」は企業価値を大きく成長させている。日本企業がパーパス・ドリブン・ビジネスへの転換を実現するにはどうすればいいのか。
先進国の「無関心化トレンド」は依然として継続

アクセンチュア 戦略コンサルティング本部
マネジャー
早稲田大学卒業後、広告代理店勤務を経て2013年にアクセンチュア入社。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了(MBA)。通信・メディア・ハイテク業界を中心に、ビジネスモデル変革、新規事業創出、マーケティング・セールス改革といった成長戦略領域のコンサルティングに従事。事業領域を横断した全社戦略・中長期ビジョンの策定と計画化におけるクライアント支援実績多数。
――まず、今回の「グローバル消費者調査」の調査概要を教えてください。
青野 本調査はアクセンチュアがグローバルで2005年から毎年実施している定量調査です。銀行/金融サービス、エンタメ、消費財小売、ヘルスケアなど、13業種を対象に、商品・サービスの購入に関わる120以上の質問について消費者の意見を集めています。今年は、世界35ヵ国の2万9530人、うち日本1460人から回答を頂きました。
今年の調査には論点が4つあります。1点目は「強いブランドを生み出すために重要な要因は何か?」、2点目は「何が消費者の信頼を築き、一方で何がそれを棄損してしまうのか?」、3点目は「テクノロジーの進化による消費者ニーズの拡大は続いているのか、それとも踊り場に来ているのか?」、そして最後は「企業はデジタルとリアルが融合する時代にうまく対応できているのか?」。1点目と2点目に興味深い結果が表れたため、後ほど紹介します。
さらに日本では、去年、一昨年の調査結果を踏まえ、(1)消費者の無関心化トレンドに変化はあったか、(2)無関心な消費者はどのような価値観を持っているのか、(3)無関心な消費者は何を重視して購入を決めるのか、――という3つの着眼点から分析を加えています。
ここで述べている消費者の無関心化とは、消費者が製品・サービスを購入する際、商品そのものに対する興味・関心が薄くなっている傾向を指しています。無関心化した消費者は、事前に情報を検索したり他商品と比べたりはせず、ほとんど吟味しないままに購買行動に至っていることが明らかになっています。過去2年の調査では、先進国で消費者の無関心化が進んでいること、特に日本の消費者はその傾向が顕著であることがわかりました。
今回の調査でも、昨年と同様に先進国においては30~40%に上る消費者が情報探索を行わないままに製品・サービスを購入しており、無関心化のトレンドは依然として続いていると考えられます。
日本の消費者は企業に失望すると
二度と購入しない割合が高い

アクセンチュア 戦略コンサルティング本部
マネジング・ディレクター
慶應義塾大学理工学部卒業後、2000年アクセンチュア入社。通信・メディア・ハイテク等の業界を中心に、企業成長戦略、デジタル戦略立案・推進、新規事業創出、マーケティング・営業戦略、戦略等の戦略コンサルティングに多数従事。
――無関心な消費者はどのような価値観を持っているのか、については調査結果からどのようなことが見て取れますか。
小林 それが表れているのが「社会的課題に関わる企業への期待」に関する問いです。「企業には重要な社会的課題に対して態度を明確にしてほしいですか」との質問に、消費者の70%以上が「明確にしてほしい」と答えています。この傾向は若い世代ほど強く、18~24歳では80%に上っています。
さらに、「企業に社会的課題に関する言動に失望した際、どのように対応しましたか」では、グローバルでは47%、日本でも31%が「製品・サービスの購入をやめた」と回答。そのうち、日本では4分の1の消費者が「二度と購入することはない」と答えています。
その理由としては、(1)日本には代替品が多く存在すること、(2)悪い印象がブランドイメージとして残ること、(3)長年愛用してきたのに裏切られたという思いが強くなること――などが考えられるでしょう。いずれにしても日本の消費者がこれほど厳しい考えを持っているとは、少し意外な結果でした。
――無関心な消費者は何を重視して購入を決めるのか、という点については?
小林 それは、「価格・品質以上に、どのような要素を重要視しますか」という問いから見えてきます。選択肢の「企業から得られる印象」「企業が持つ行動指針」「企業が示すビジョン」のうち、消費者が最も重視しているのが「企業が示すビジョン」で、グローバルでは39%、日本では52%にも上っています。
これもまた、興味深い結果でした。他の設問ではグローバルの数値に比べて、ここまで日本の数値が突出しているケースはなかったからです。この結果も考慮すると、特に日本企業は、ビジョンの中で、社会的な課題に対し自社が成し遂げたいパーパスを打ち出し、消費者の共感を得ることが求められていると考えます。つまり、消費者から見て「いかにパーパス・ドリブンな企業になるか」が、無関心化する消費者を攻略するカギになるといえるでしょう。