米国、EU(欧州連合)、中国の3極の争いの構図が顕著になってきた。3極はそれぞれが独自の戦い方を仕掛けているが、日本にはまだ独自の勝ち筋が見えていない。
サステナビリティやESG(環境、社会、ガバナンス)に対する世界的な関心の高まりがもたらした新たな競争ルールとはどのようなものか。そして、3極独自の戦い方とは何か。それらを理解したうえで、日本の強みを活かした戦い方、日本独自の成長モデルを展望する。

「デファクト」「デジュール」「覇権」の
 三つ巴の争い

 いま日本企業が置かれているビジネス環境を俯瞰してみると、新しい競争ルールに基づく米国、EU、中国という3極での争いに巻き込まれている姿が浮かび上がります。

アクセンチュア
シニア・マネージングディレクター
専務執行役員
ビジネス コンサルティング本部 統括本部長 兼 ストラテジーグループ アジア太平洋・アフリカ・ラテンアメリカ・中東地区 統括本部長

牧岡 宏Hiroshi Makioka

東京大学工学部卒業。マサチューセッツ工科大学経営科学修士修了。丸紅、ベイン・アンド・カンパニーを経て、2014年にアクセンチュアに転職。 全社成長戦略、組織・人材戦略、M&A(合併・買収)戦略等の領域において幅広い業界のコンサルティングを行いながら、同社のビジネス コンサルティング部門を統括している。 監訳書に『サーキュラー・エコノミー:デジタル時代の成長戦略』(日本経済新聞出版社、2016年)がある。

 新しい競争ルールを生み出した背景には、サステナビリティやESGに対する世界的な関心の高まりがあります。社会は加速する気候変動への対応を企業に迫っていますし、顧客はサステナビリティを重視した購買行動を取るようになっています。さらに、投資家は投資判断においてますますESGに重きを置いています。

 世界上位20社の企業価値総額を見ると、2020年度は2000年度と比べて3倍強に増大しています。企業価値は、短期的な利益に基づく現在価値(Current Value:CV)と将来創出される価値(将来価値:Future Value:FV)で構成されます。現在価値に影響するのは営業利益率やROIC(投下資本利益率)といった財務的KPI(重要業績評価指標)であり、将来価値はESGスコアや顧客満足度、従業員エンゲージメントといった非財務的KPIに左右されます。

 グローバルの企業価値トップ10社における現在価値と将来価値の割合は、2000年度には将来価値が25%でしたが、2019年度には53%を超えました。つまり、過去20年ほどの企業価値増大の大部分は、将来価値の向上によってもたらされていると説明できます。

 翻って、日本企業を見た場合、短期的な利益もさることながら、将来価値の創出力が弱いことが、企業価値の伸び悩みにつながっています。

 企業価値を高めるには、現在価値を最大化することに注力しつつも、同時に顧客や従業員などの体験価値、環境や生態系などの社会的価値、従業員の教育・リスキリングによる人材価値、組織のインクルージョン&ダイバーシティなどを高めて、将来の価値創出力にドライブをかける全方位的な経営の実践が求められています。そして、長期的な将来価値の向上がやがて現在価値の拡大に結び付くポジティブサイクルを回すことで、企業価値を増大させていく。これが新たな競争ルールとなっているのです。

 ちなみに、アクセンチュアでは全方位経営を「360°Value」と呼んでいます。そして、全方位経営の実践度合いを「360°Value Meter」で測定、可視化して、将来価値を高めるための長期プランをクライアント企業と一緒になって策定しています。

 米国、EU、中国の3極は、この新たな競争ルールを踏まえ、それぞれの戦い方で全方位経営を推進しています。その戦い方を一言で表現するなら、米国は「デファクト」、EUは「デジュール」、中国は「覇権」です。