この数年の間に、自動車産業に大変革期をもたらすといわれるキーワードが「CASE(ケース)」だ。頭文字となっている4つの領域の進展によって商品構造、バリューチェーン、ビジネスモデルが非連続的に変化し、脅威とチャンスを生み出すという。実際、「CASE」によってどのようなビジネスが誕生し、社会はどう変わるのか。また、自動車産業大国の日本は「CASE」時代にどのように対応すべきなのか。
「サービス」がクルマビジネスや社会を大変革する
――はじめに、「CASE」の意味と各領域の状況について教えてください。

アクセンチュア 戦略コンサルティング本部
マネジング・ディレクター
東京大学卒業後、日産自動車、三菱総合研究所、A.T. カーニーを経て、アクセンチュア参画。自動車関連を中心に経営コンサルティングを数多く手掛ける。経済産業省、国土交通省、NEDOなどで各種委員を歴任。主な著書に「自動車産業 次世代を勝ち抜く経営」(日経BP、2011年)、「電気自動車が革新する企業戦略」(共著、日経BP、2009年)、「情報革命と自動車流通イノベーション」(共著、文眞堂、2000年)等。
川原 この言葉自体は、2016年のパリモーターショーで独ダイムラーのディーター・ツェッチェCEOが発表した中長期戦略の中で提唱した造語です。「Connected:コネクティッド化」「Autonomous:自動運転化」「Shared/Service:シェア/サービス化」「Electric:電動化」の4つの頭文字をとったもので、その1年前の2015年9月のフランクフルトIAA(モーターショー)で述べた「自動車メーカーからモビリティのサービスプロバイダへと変わる」という戦略の実行の方向性を具体化したものになります。自動車を製造・販売する会社から、クルマを移動するための手段としてサービスを提供する会社に変わる、という意味です。
我々は、彼が発言した4つの領域の中でも、クルマビジネスや社会を大きく変えるのは「シェア/サービス化」で、それを革新的に提供する手段として「コネクティッド化」「自動運転化」「電動化」という新しい潮流があると位置づけています(図1)。これらの技術の進展が「サービス」におけるイノベーションの基盤を支えるという構図です。
インターネットと常時接続される「コネクティッド化」は、クルマの状態や周囲の道路状況などのビックデータを生み出し、それを蓄積・分析することによって新しい価値を創造することが期待されています。最も早く実用化が始まり今後2020年前後にかけて幅広く普及していこうとしている領域です。
「自動運転化」に関してはレベル1~5があり、自動車メーカーだけでなく、Google(Waymo)、Uberなどモビリティにおける新たなグローバルプレーヤーが実用化を急いでおり、先行している面もあります。各社の計画に基づくと、2020年過ぎには完全自動運転車が市場投入され、2020年代後半からは普及に向かうと想定されます。
「電動化」では、中国メーカーに加え欧州メーカーも電気自動車(EV)で先行する様相を示しています。独フォルクスワーゲンは、多様なパワートレーンに対応するクルマの構造(アーキテクチャ)の導入で先行し、EVでも標準化した部品を組み合わせてクルマを設計するモジュール化により、多くの車種をスピーディに市場に投入できる体制を整えています。ハードウェアだけでなく、ソフトウェアも新たな技術に柔軟に対応することが可能です。進化のスピードが速い電子・電気部品に合わせて、素早くアップデートすることが求められるからです。一方、日本の自動車メーカーは個々のクルマ全体の仕上がり、作り込みを重視する傾向があったため、十分な柔軟性を持つモジュール化の導入に関しては導入が遅れ、そこまで競争力に結び付けることができない可能性があります。
北村 この大きな変化は、OEM(自動車メーカー)にとって非常に辛いことです。コネクティッドもEVもまだまだ利益が出る状況ではない。しかし、3つの領域の技術革新が加速する中、サービス化は待ったなしで進み、新しいプレイヤーも続々と参入してきます。数年の間に自動車産業は、ここ数十年間なかった大変革期を迎えるでしょう。
