デジタル変革(DX)の必要性が叫ばれ、あらゆる企業が基盤となるITシステムとその開発体制の見直しを迫られている。そのスピードと柔軟性を追求するうえで大きなハードルとなっているのが、レガシーな基幹システムの存在である。押し寄せる市場からの開発要求に対して、堅牢さと安定性が求められる基幹システムは、どのように維持・変容されるべきか。二極化するニーズを統合し、全社規模のDXを支える新たな基盤のコンセプトとして、「Living Systems」を提案する。

「ITがビジネスに追随できない」というジレンマ

北沢 絵里奈(きたざわ・えりな)
アクセンチュア
ビジネス コンサルティング本部
テクノロジーストラテジー&アドバイザリーグループ
テクノロジーアドバイザリー プラクティス
マネジング・ディレクター

東北大学大学院卒業後、1998年アクセンチュア入社。要件定義・設計・開発、保守・運用を含めたSIの現場を経験した後、ITストラテジーグループにて全社IT戦略・中長期計画策定・実行支援、ITコスト削減、IT投資マネジメント、ITガバナンス強化、IT組織再編などのプロジェクトに従事。現在、製造・流通におけるクライアントを中心に、大規模基幹システム刷新やデジタル/IT戦略立案プロジェクトをリード。

 市場環境の激しい変化の中で、ビジネスが急速に短命化しています。ある調査では、2000年以降、S&P 500に名を連ねていた企業の52%がM&A(企業の合併・買収)や経営破綻などによって、その姿を消したという衝撃的な事実が判明しています。こうした混迷の時代を乗り切るための手段として、デジタル変革(DX)が叫ばれていますが、意外にも、ビジネスのライフサイクルが短くなる一方で、企業の基幹システムの寿命はむしろ長期化する傾向にあります。この背景には「2025年の崖」といった問題に加えて、企業の経営陣の多くはレガシーシステムがイノベーションを阻害する要因になっていることを認識しながらも、即座に廃止することは難しいと考えている現実があります。

 ここで浮き彫りになるのが、「ITがビジネスのスピードに追随できない」というジレンマです。業種を問わず、多くの企業が突き付けられているこの課題を解消するためには、経営と業務、そして情報システムが密に連携しながら、自己変革のためのシナリオを短いサイクルで回していける組織づくりが不可欠です。アクセンチュアでは、こうした全社規模のDXを支える新たな基盤のコンセプトとして「Living Systems」を提唱しています。とりわけ、すぐにでも取り組まなければならない重要なポイントとして挙げられるのが、「ITの発想転換」と「DXの効果を創出する仕掛けの整備」の2つです。