落合陽一氏とアクセンチュアのコラボレーションは3年にわたって継続してきた。アクセンチュアも支援したスタートアップ企業の世界的イベントSLUSH ASIAをきっかけに、実際のクライアントワークでも協業。現在も大企業のイノベーション創出をより活性化すべく幅広いプロジェクトを共にしている。ビジネスの最前線にいる両者に、昨今の日本企業の課題は何か、スタートアップ企業と大企業のシナジーを高めるために必要なアプローチとは何かを聞いた。
シナジー効果を高めるには
コラボレーションをプロデュースする仕組みが必要
――日本の大企業のイノベーション創出における、昨今の状況や課題は何でしょうか?
廣瀬 落合さんと初めてご一緒した2015年頃と比較して、日本の大企業がオープンイノベーションを加速しているように感じます。スタートアップ企業を含む、外部の組織と組みながら新しいことにチャレンジする取り組みが日々多くなされています。
しかし、必ずしも成功を収めているプロジェクトばかりとは言えません。優れたアイデア・技術やスピード感を持つスタートアップ企業とシナジー創出を目指す多くのプロジェクトにおいて、目に見える形で大きい成果が生まれているとは言い難い状況です。より大きな成果を生み出すべく、成功事例から学ぶことが重要でしょう。多くの大企業と協業し、成功事例も生み出されている落合さんは現状をどのようにご覧になっていますか?

メディアアーティスト、博士(学際情報学)、
Pixie Dust Technologies.Inc CEO
筑波大学 学長補佐、デジタルネイチャー推進戦略研究基盤 基盤長/准教授 大阪芸術大学客員教授、デジタルハリウッド大学客員教授、VRコンソーシアム理事、一般社団法人未踏理事、電通ISIDメディアアルケミスト、博報堂プロダクツフェロー。2009年未踏ユース上期採択、IPA認定スーパークリエータ・経済産業省Innovative Technologiesは3年で4回受賞(2014,2015,2016)。
落合 大企業は、僕たちが持っていない人材リソースや生産パイプライン、品証の仕組みなどを所有しており、コラボレーションの際に僕たちは自社のやるべきことにフォーカスできています。つまり、僕たちが出せるバリューと、大企業側が出せるバリューが噛み合ってきているのを感じます。
実際に僕たちの会社でも、大企業とスタートアップ企業のコラボレーションに関するプロジェクトだけでも常時30件以上のパイプラインが並走しており、日々奮闘しています。
僕たちのような企業はフットワークが軽いことが優位性の一つなので、新しいアイデアを次々と形にしていくことができます。スタートアップ企業を遊軍的に活用する考え方には賛成ですし、大企業の経営トップ層の反応も大方において迅速です。課題は経営層がくだした意思決定を実行する人材の不足にあると考えています。

Pixie Dust Technologies.Inc COO
東京大学工学部マテリアル工学科卒業後、同大学院にてバイオマテリアルを専攻、2010年東京大学大学院修了、修士(工学)。アクセンチュア株式会社 戦略コンサルティング本部にて、R&D戦略/デジタル化戦略/新規事業戦略/JV設立支援等を中心に、テクノロジーのビジネス化を支援。ベンチャー技術の評価と大企業への橋渡しを行う新組織(Open Innovation Initiative)、およびイノベーション拠点(Digital Hub)の立上に参画。外資系VCの日本支社立上や技術ベンチャー支援等を行った後、Pixie Dust Technologies.Inc COOとして参画。一般社団法人未踏エグゼクティブアドバイザーを兼任。
村上 大企業とスタートアップ企業、双方の強みが組み合わさることで、互いが持っていないケイパビリティを補完しあえます。そのような形でコラボレーションが成功するとベストです。しかし大企業はまだ「割り切れていない」のかもしれません。
例えば、僕たちの取引先に、製造や品証の仕組みのレベルが極めて高い企業が多くいます。不良品はほとんどなく、複雑なものをきっちり組み上げることができます。しかし、そうした製造能力の高さが自社の強みであると明確に認識しているかというと、必ずしもそうとは言い切れません。それが「割り切れていない」と感じる背景にあると思います。複数の切り口で自社の強みを認識し、ケースに応じて、「それが活用できればOK」という割り切りができればより補完的コラボレーションが成立しやすいように感じます。
久池井 経営トップ層と対話をすると、しばしば「自社の社員が新しいことに挑戦しない」「新しいことをやれと指示しても反応がない」といったお声を聞きます。最近は新しいことに挑戦しない人たちをネガティブに扱う傾向が強いように思いますが、良い面も見る必要があると私は思っています。
たとえば、大企業の「良さ」の1つに質実剛健さが挙げられます。仮に、大企業のそうした特長や環境を維持している人材が大勢でスタートアップ企業に移籍しても、スタートアップ企業の機動性を損なうだけでしょう。同様に、スタートアップ企業で新しいチャレンジに取り組んでいる人材が大企業でプレゼンスを出そうとすると、逆に大企業の良さが失われてしまう可能性があります。私はこうした人材の棲み分けが上手く行っていないところは課題の1つだと考えています。
先ほど村上さんがおっしゃったように、大企業とスタートアップ企業が、互いの良さを引き立てあう仕組みづくりの必要性を強く感じています。
落合 たしかに人材は組織やその企業の事業に最適化されますね。
廣瀬 大企業には現業をきちんと維持し、継続的に成長させていく担当者が必要です。そうした既存の取組を行うモードと、スタートアップ的な新たな取組のモードとの切り替えが必要です。
多くの大企業は現状イノベーションに対して自信喪失状態です。しかし、ともすれば当たり前と考えている現業の強みを再確認することと、内製に固執しないことが重要だと私は考えています。自社の強みが実は外部企業には魅力的であり、内製に拘らずそうした外部企業から必要な能力を必要に応じて調達できるかが、イノベーションの速度を決めると思います。
落合 巨大な組織が「新しいこと」を内部で生み出して即出しすることは意思決定の速さや品質保証の観点から困難ですが、外部の新しいアイデアと出会い、取り入れていくことは相対的には容易だと思います。大企業が自社にチャレンジ組織を抱えるよりは、外部とコラボレーションする仕組みを構築することが推奨されるべきでしょう。
いわば、コラボレーションをプロデュースしていく仕組みの実現が1つの理想形だと言えます。