今回のコロナ禍で、日本の"ヘルスケアのデジタル化"の遅れと、その必要性があらためて浮き彫りとなった。一方、他国ではデジタル化の恩恵であるデータを活用し、コロナ対策含め創薬や医学研究の進展が著しい。これまで質の高い医療制度と医療アクセスのよさを誇ってきた日本でも、データ利活用の前提となるデジタル基盤整備およびサービス創出の重要度が高まっている。

人口当たり病床数が世界一の日本であっても病床逼迫の危機にさらされてしまう今回のようなパンデミックは、今後も起こりうる。ヘルスケアやライフサイエンスは、我々の命に直結する領域であり、デジタルヘルスの後進性は深刻な国家的課題だ。

ヘルスケア・ライフサイエンス領域におけるデジタル化の現状を国際的に比較した調査の結果を通じ、日本でのデジタルヘルス普及に向けた課題、目指すべき将来像、そして日本における先進事例について、アクセンチュアの3氏に聞く。

デジタル化推進のカギは、データ管理の安全性

――新型コロナウイルス対策でも日本のデジタル化、データ活用の遅れが指摘されましたが、海外と比べてどういった違いがあるのでしょうか。

藤井 アクセンチュアでは、消費者と患者のヘルスケア・ライフサイエンス領域に対する意識と行動を把握するために、世界14カ国で「Consumer/Patient Survey」を2021年6月に実施しました。その分析結果をもとに、日本と海外の違いについて、いくつかのポイントを説明します。

 まず、新型コロナの流行前後での医療アクセスの変化について、グローバル平均では約20%が「改善した」と答えたのに対し、日本ではわずか6%程度に留まりました。この差分は、デジタルヘルスの進展の差によるものと思われます。

 たとえば、過去1年以内で、健康管理にデジタル技術を使用した人の割合は、グローバルでは60%に達したのに対して日本は37%でした。特に差が大きいのは、オンライン診療、電子診療記録、ウェアラブル技術でした。

――そのほかにも、海外と日本の違いとして特徴的なものはありますか。

藤井 デジタルヘルス利用における比較では、利用意向が1%上がると、利用経験は6%上がるという相関があることが調査からわかりました。日本は利用経験が30%と14カ国中最下位であり、利用意向においても94%とけっして低い割合ではありませんが、他国と比較すると低い状況にあります。

 こうした日本の傾向は41歳と42歳を境目に大きく変わります。18歳から41歳までのミレニアル世代と呼ばれる人たちは利用経験が軒並み40%以上なのに対して、42歳以上では20%台に落ち込みます。ミレニアル世代は、インターネット環境の整備が飛躍的に進んだ時代に育った世代であり、幼い頃からデジタル機器を当たり前のように使ってきたことが、この違いにつながっていると考えられます。

 デジタルヘルスの利用を妨げている要員の一つに、デジタルソリューションへの信頼感の低さがあります。日本人は医療への人工知能(AI)活用に不安を感じやすく、これは診断におけるAIの活用のみならず、カルテ記載補助などの管理目的の場合にも同様の傾向が見て取れました。

 データセキュリティの問題もあるようです。日本では、第三者が個人のヘルスケアデータを安全に管理することに対する信頼度が、グローバル平均に比べて全般的に低いのです。ヘルスケアデータの預け先として「非常に信頼している」と回答した人の割合は、「かかりつけの医療提供者(医師、病院など)」が23%(グローバル平均は41%)、「現地または国の政府」はわずか6%(同18%)でした。

――ではどうしたら、日本の消費者・患者がデジタルヘルスをもっと利用するようになるのでしょうか。

 健康管理にデジタル技術を使ううえで重視する要素を聞いたところ、世代を問わず多かったのは、「データの安全性やプライバシーに対する信頼性」「医療機関からのアドバイス」という回答です。一方、ミレニアル世代以下は「より質の高いデバイス/ソフトウェア/アプリ」、ミレニアルより上の世代では「自分の健康に関するよりよい情報」を重視する傾向が高いことがわかりました。