前田建設工業と前田道路、前田製作所が経営統合して2021年10月に誕生したインフロニア・ホールディングス(HD)。建設中心のビジネスモデルからの脱却を目指し、社会インフラへの出資、施工、運営・管理までを一貫して手掛ける“総合インフラサービス企業”への転換に挑んでいる。その一環として、2022年4月には、「建設・インフラ」業界で最先端となる経営モデルを実現すべく、アクセンチュアとの協業を開始した。
日本の「建設・インフラ」業界が抱える構造的な課題は何か。それをいかにして解決していけばいいのか。インフロニアHD社長の岐部一誠氏とアクセンチュアの牧岡宏氏、戸野本時直氏に聞いた。
建設業界では「規模の経済」が働かない
――まず、日本の「建設・インフラ」業界の現状について、見解を伺えますか。
岐部 課題は無限にありますが、社会インフラに関して言えば、特に老朽化が確実に進んでいる点が深刻でしょう。たとえば、当社では今年(2022年)の4月から大阪市の工業用水道を運営し始めましたが、水道管路の老朽化とこれに伴う漏水への対応の重要性を日々痛感しています。全国的に見ても法定耐用年数を超えた水道管路が年々増加していて、すでに全体の20%に迫っているのですが、一方で水道に関わる職員の数はピークに比べて40%近く減少しています。課題の大きさに対して財政や技能を持った職員の数といったリソース面での制約により、国や自治体による維持管理は困難が増しています。
こうした問題に向き合ううえで、データに基づくプランニングが不可欠ですが、これまでに空港や有料道路、工業用水道などの事業を行政から引き継いでくる中で、データ活用以前に、存在するデータのほとんどが膨大な紙情報でしか存在していないという問題にも直面しています。これでは引き継ぐにも活用するにも膨大な手間がかかってしまいます。

インフロニア・ホールディングス
取締役
代表執行役社長 兼 CEO
Kazunari Kibe熊本大卒業後、1986年前田建設工業入社。経営管理本部総合企画部長、執行役員土木事業本部副本部長・経営企画担当、常務執行役員事業戦略本部長などを経て、2020年取締役専務執行役員経営革新本部長。2021年10月インフロニア・ホールディングスの発足に伴い、代表執行役社長 兼 CEOに就任。
こうした課題は20年前から予見されていたことですが、予算が限られている中でこれまでのように公共セクターに任せっ切りの維持管理では、解決できないと思います。
そうした状態になりつつあることは、国や自治体、建設業界の人たちも以前からわかっていたはずです。しかしながら大きな変革を避けてきた。まさに「ゆでガエル」で、このままでは取り返しがつかないことになると、強い危機感を抱いています。
牧岡 業界に大きな動きがない、というのは我々も感じています。日本の建設業の規模は大手ゼネコンだけで約9兆円(2022年度予測*1)、業界全体では約63兆円(2021年度予測*2)にも上る巨大な産業ですが、企業の再編・統合や、いわゆるDX(デジタル・トランスフォーメーション)があまり進んでいません。特に中堅・中小の建設会社のデジタル化は、かなり遅れているという印象があります。
また、通常多くの業界でシェアが高い企業ほど利益率が高くなるものですが、建設業界ではその図式が当てはまりません。多数の建設工事を抱えているものの、業務の標準化やデジタル化があまり進まないためエコノミー・オブ・スケール(規模の経済)が働いていない。これは実は中堅にとっては大きなチャンスです。インフロニアのような準大手が先駆者となって、業界を変えるようなディスラプション(創造的破壊)を起こしうるのです。