会津若松市と「KISA2隊」の実例に学ぶ、デジタル化への道

――データプラットフォームの整備と利活用という点で、参考になる先行事例はありますか。

藤井篤之
アクセンチュア
ビジネス コンサルティング本部
ストラテジーグループ マネジング・ディレクター

主に公的サービス領域(官公庁・自治体・大学・公益団体など)のクライアントへの調査・コンサルティング業務に従事。会津若松スマートシティにおけるヘルスケア領域の支援、戦略立案に従事したほか、民間企業向けにもスマートシティ、ヘルスケア関連プロジェクトに関する豊富な経験・実績を有する。

藤井 たとえば福島県会津若松市では、市民の健康管理・医療・介護を担うバーチャル機関として地域全体が機能することで、医療・介護費削減と持続可能な健康長寿を実現させるプロジェクトを進めています。

 具体的には、電子カルテデータなどのヘルスケアデータをPHRプラットフォームで包括的に連携させ、データ利活用の基盤を整備しています。また、音声AIを基軸とした電子カルテへの自動記録など、診療サポートによって医師の業務負荷を低減する取り組みも進めようとしています。

 ヘルスケアデータはあくまでも個人のものであり、利活用も本人の同意の下に行うことを前提に、医師会や大規模な病院も参加して議論しています。

石川 日本ではデータは誰のものかという議論がありますが、英国では紙のカルテの時代からデータオーナーは患者でした。病院を移る際は紙のカルテを持って次の病院に行くという歴史があったのです。

 日本の場合は、それぞれの医療機関にデータの保存を義務付ける法律があります。履歴を残しておくという目的の下に、病院がデータを管理しなくてはならないという立て付けになっているのです。

 今回のコロナ禍によって、パンデミックはいずれまた起こるという認識が高まり、次への備えとして、データの広域的、公共的な活用が議論されています。ここでいま一度、データは誰のものか、何に使うのかを、セキュリティを含めて議論することが必要だと思います。

小川 第5波のコロナ禍のさなか、大阪で病院のベッドが満床になり、医療体制が逼迫した時、私の友人医師が地域の若手医師を中心に「KISA2(きさつ)隊 大阪」というチームをつくり、在宅コロナ患者さんの訪問診療に取り組みました。また、コロナの真っただ中、京都の街を救うために一人のリーダー医師が立ち上がり、京都にもKISA2隊が生まれました。

 大阪では、情報を一括収集して管理するデジタルプラットフォームを立ち上げ、短期間で在宅診療体制を構築し、医師会の支援も受けて、治療に当たったのです。デジタルプラットフォームといっても、内容はシンプルなエクセルシートです。そういった簡単なツールでもプラットフォームができて、デジタルで管理されることによってチームの力が総合的に上がっていくのを、私はリアルタイムで感じました。

  往診のために患者さんの自宅へ移動する中で、事務局がどんな患者さんにどんな治療がなされたかといった情報をエクセルにどんどん入力していきます。これにより、事務局と診療チーム間で効率的に情報を共有でき、患者さん宅での滞在時間が短縮され、さらに保健所への診療サマリーの提出も簡便になります。

 現在は、患者さんの安否確認に、対話アプリのチャットボット機能の導入を試みています。電話連絡だと一人ずつしか連絡を取れず、患者さんの都合で出られないことがありますが、チャットボットであれば患者さん全員に一斉にメッセージを送信することができます。そして、それぞれの患者さんからの返信を受け取ることで、医師は安否確認をすることができます。さらに、返信の内容に応じて診察の優先順位付けを行うことで、限られた医療資源を重症の患者さんに集中することができるのです。

 KISA2隊は、第5波の緊急事態宣言中には350人以上を診療し、一人も命を落とすことなく責務を全うすることができ、第6波でも訪問回数は5000回を超えました(2022年2月初旬時点)。こうしたKISA2隊の活動から私は、イノベーション創出のカギとデジタルプラットフォーム形成のポイントを学びました。

――そのポイントとは、どのようなものですか。

小川 イノベーションを起こすには、KISA2隊のように同じ課題を解決したいという仲間が集い、デジタルプラットフォームを形成することによって、チームワークと情報共有の基盤をつくることが重要です。そのためにも、自分自身の目で診療現場の課題を発見し、志を共にできる医療者同士を連携させ、外部のデジタル人材を巻き込み、実証可能な医療現場でプロトタイプを磨き込む。そうしたことができる環境が、医療の現場にもっと必要ではないかと考えています。