日本の銀行は、製造業を中心とした重厚長大な産業を育成し、結果、高度成長を支える経済基盤を資金面・事業面からサポートしてきた。一方、2000年代以降に急成長を遂げたITやデジタルといった新興産業への投資はスキームとケイパビリティ(総合的な能力)の不一致から積極的ではなかった。今後、20年で発展する産業は再びバーチャルからリアルへと移行し、銀行が持つファイナンスのケイパビリティを活用できる時代になると見られる。なかでも飛躍的な発展が見込まれるのは「宇宙」「Industry 4.0」「製薬」といった多額の投資を必要とする産業である。こうした業界で、今どのような変革が起きているのか、そしてまた、銀行だから実現できるファイナンススキームとはどのようなものなのか。

技術革新によって開かれる金融機会

――次代の成長産業は日本の銀行にどういった役割を求めるのでしょうか?

山村 創
アクセンチュア 戦略コンサルティング本部
シニア・マネジャー

京都大学大学院卒業後、2012年アクセンチュア入社。戦略コンサルティング本部にて金融業(銀行・クレジットカード)を中心に新規事業戦略立案、全社・事業戦略立案、業務改革等の戦略プロジェクトに従事。新規サービスの戦略立案から実装・サービスリリース・ブランディングといった一気通貫での支援や、ベンチャーキャピタル向けFintech部門ハンズオン支援など金融事業向けデジタル・イノベーションの領域で多数の実績を有する。

山村 歴史を振り返ると、日本の高度経済成長は自動車や家電などに代表されるモノづくりに支えられ、銀行はそれを資金面から融資によってサポートしてきました。つまり、銀行が産業を育てる役割を担ってきました。

 一方で、この20年はインターネットの普及でIT産業が飛躍的な成長を遂げたわけですが、これらの産業は不確実性の高い金融スキーム、つまり投資による成長が主という特徴があります。例えば検索エンジンで言えば、Altavistaなどの先進的なプレイヤーが跋扈した中で、結果としてGoogleが勝利しただけです。銀行はこのような不確実性の高い市場に対して、ケイパビリティの不一致から積極的な関与を控えてきました。

久池井 しかし、次の20年は発展する産業がバーチャルからリアルへと移行します。とくに飛躍的な発展が見込まれる産業は「宇宙」「Industry 4.0」「製薬」などが想定されます。これらの重厚長大な新興産業の巨大な資金調達需要に対して私たちは日本の銀行が持つファイナンスのケイパビリティが活用できると考えています。これは高度成長時代に銀行業が培った事業創造のスキームに最新のテクノロジービューが加わることによって実現可能だと思われます(図1)

技術革新によって、銀行が持っている既存の金融ノウハウを新産業の領域で生かすことができる時代が到来している。
出典:アクセンチュア