長期・大規模投資を担う
骨太のプレイヤーが求められている
――これらの産業の発展において、なぜ銀行が重要な役割を担うのでしょうか。
久池井 ご紹介した3つの新興産業には、これまでのようなIT向けの投資スキームは通用しません。というのも、テクノロジーによって収益化の加速、低価格化が実現したとは言っても、今まで100年かかっていた期間や、数兆円かかっていた投資が数分の1になっただけで、依然として収益化に時間がかかり、大規模な投資が必要な産業であるからです。
例えば、一般にベンチャーキャピタルが設置するファンドは数十から数百億円の運用資産を用いて10年程度の期間でのフィナンシャルリターンを期待されます。このため彼らは、短期間で成果が上がる可能性の高い企業について一件当たり数億円の投資を行い、ポートフォリオを組むというスキームで資産を運用していますが、このスキームで前述の産業を取り扱うことは難しいです。
銀行はこうしたベンチャーキャピタルでは取り扱うことの難しい巨額の長期投資についてケイパビリティを持っています。
山村 だからこそ、既存の銀行にとって大きなビジネスチャンスになるわけです。新興産業への新たなファイナンススキームとしてはたとえば次の3つが考えられます。
1つは、「巨大新興産業へのプロジェクトファイナンス」です。宇宙産業の勃興は、まさに新たな大航海時代の幕開けといえるでしょう。前述したように、商社や個人投資家などから広く投資資金を募り、集めた巨額の資金を適切に管理する役割を銀行は担うことができます。
2つめは「デジタルアセットファイアンス」です。企業が保有する資産から生み出されるキャッシュフローを返済原資とするアセットファイナンスは、これまで機材や不動産など目に見えるモノに付けられてきました。しかし、これからは知財やデータ、技術力などのアセットに対してファイナンスを付ける「デジタルアセットファイアンス」のニーズが拡大するでしょう。
久池井 最後は「インダストリー4.0×サプライチェーンファイナンス」。先にお話したように、IoT系スタートアップはアイデアを生み出し、プロトタイプを作る能力はあっても、それを信頼に足る品質に仕上げたり量産したりする技術や設備は持っていません。そこで銀行が、高い技術はあるものの、アイデアはないモノづくり中小企業と、IoT系スタートアップとを仲介することによってファイナンスを付けることが可能になります。
冒頭でも述べましたが、もともと銀行は産業を創る役割を担ってきました。今回紹介した3つの産業の新たな潮流を銀行が捉え、運用資産の1%でもこうした新産業に回すことが出来れば、国内産業の成長をより一層加速させることが可能となるでしょう。

(取材・文/河合起季 撮影/宇佐見利明)