これから発展する産業分野に
日本のモノづくり技術力が生かせる

――では、そうした新しい時代、日本が得意とするモノづくり技術にはどのような可能性があるのでしょうか。

山村 製造業では今、IoTを駆使したインダストリー4.0(第4次産業革命)が注目されています。日本は世界に知られるカンバン方式をはじめ、非常に高度な製造・生産管理技術を持ちながらも、ヒット商品を生み出すアイデアがなく、その技術を生かせない企業が少なくありません。

 その技術の活用例として、ソニーから独立したVAIO㈱のケースが挙げられます。ソニーのコンピュータ製品をはじめ、家庭用ロボット「AIBO」などを製造してきた会社ですが、2018年4月、popIn(ポップイン)が開発した「popIn Aladdin(ポップイン アラジン)」の製造を受託しました。ポップインは、中国検索エンジン最大手、百度の日本法人バイドゥが出資する東京大学発のベンチャー企業です。

 この製品は、壁に動画などを投影する機能を持つ照明で、プロジェクターとスピーカー、そしてAndroid OSを搭載しています。「寝室を家族みんなのコミュニケーションが深まる空間にする」というのが開発コンセプト。例えば、夜、寝室で「童話の朗読」「ひらがな表」「YouTube kids」などを映して子供に見せながら寝かしつけるといったことにも利用できます。

 ポップインは、優れた開発コンセプトとプロトタイプを作る能力はあっても、生産設備や高品質な製品を大量生産する技術は持っていません。そこでVAIO社が目に止まったというわけです。

 こうした魅力的なアイデアを持つベンチャーと、高度な製造技術を持つ日本の製造業との橋渡しとして、日本の銀行は存在意義を発揮できると考えられます。

久池井 また、シャープは台湾の鴻海に買収されましたが、彼らが欲していたのはシャープの液晶を始めとした技術力でした。最終製品に隠れて見えなくなってしまうこのような「ヒドゥン・アセット(隠れた資産)」を実際に活用するには巨額の設備資金が必要になります。日本の製造業と深い関係を有する銀行は、資金を供給する役割を担うことができるはずです。

新薬も短期間で開発できるようになった

――3つめの製薬産業でもイノベーションが起きています。

久池井 はい。これまで新薬は、巨額の資金を投じて10年以上かけて開発してきましたが、コンピュータで高速シミュレーションが可能になり、以前に比べると非常に短期間で作れるようになっています。

 また、一つひとつの開発案件(パイプライン)の結果が出るまで待つのではなく、開発途中で生まれた特許や副産物的な薬剤の効用を、他の治療や別の新薬開発に利用することも可能となりました。ケガの功名的に生まれた副産物を柔軟に活用することで、トータルでの開発費を抑えることができます。

山村 例えば、米国メルク社が開発した薬「フィナステリド」は本来の用途とは異なる、男性型脱毛症の治療にも効果があることが明らかになり、発毛薬「プロペシア」が誕生しました。こうした副産物は、製薬企業のROA(総資本利益率)を高める効果があります。