前編では、公文教育研究会(以下、公文)が取り組む、トップダウンでもボトムアップでもない「一人ひとりが主役」の全社改革のアプローチと、その具体的な方法について紹介した。どうして公文では、このように「人」に焦点を絞って、会社の組織、人材、風土を生まれ変わらせるような深みある全社改革を推進できているのだろうか?多くの企業では、ビジネスの話となれば、自社らしく顧客を引き付ける商材、他社より抜きんでたビジネスモデルといった、「自社にとっての最適解」を自然と考えにいこうとする。しかしながら、こと人材や組織風土のこととなると、簡単な物事と捉えて、その目的を掘り下げることもなく他社の先進事例をパッチワーク的に導入するような安易なやり方を取り入れようとしがちである。「結局は人」。人の改革、組織風土の改革において、自社らしい最適解とは何なのか?後編では、公文が「一人ひとりが主役」の全社改革を推進できている理由について深掘りする。(聞き手/アクセンチュア 戦略コンサルティング本部 海津恵)

「中期計画実行」の形:
現場の意志・考えに経営がコミット
一人ひとりの参画を日常に

海津 こうして作られた中期計画を、どのように「一人ひとりが主役」の形で実行していったのですか?

河村 そうですね、まさに中期計画策定を通じていったん大きな方向が見えてきたものを、実行ベースにどう落とし込むかが次のチャレンジでした。この実行を本当に「一人ひとりが主役」で進めていくにはどうしたらいいのか。

 まず、「意見を言う参画」から「自ら手を挙げて参画」できる、全社員公募型の「未来創造実現タスク」を立ち上げました。これは、中期計画で提示したいくつかのテーマについて、具体的に実現するための提案を行うタスクです。

 応募は、入社年や契約社員を含めた職種での制限なし、上長承認不要で行い、結果、予想を超える全社の1割弱にあたる151名の応募者がありました。応募者数が想定を大きく超えていたため、これまでの経験、キャリア、現在の業務、地域性などに鑑みて選考を行いました。選考から漏れた人には、応募への感謝を伝えた上で、その後も途中経過報告を任意で聴講できるようにしました。

 選考によって選ばれた42人のメンバーによるタスクが組成され、そこでの検討結果は、ダイレクトに社長を含めた取締役へ提案されました。

海津 現場で策定した案に、経営陣がコミットしたのですね。

河村 はい。そこで承認されたものは早速動き始めており、次年度以降の事業計画への反映も進んでいます。全社公募での提案が具体化しつつあることへの手応えを感じ始めています。

海野 全社的な意見公募や実現タスクは大きなきっかけとして重要なものであることは間違いないのですが、「一人ひとりが主役」という実感は、日常の中で積み重ねていくものだと思っています。日常のコミュニケーション、学び合い、情報還流をよりよく支えるために何ができるか、ここが何より大事だと感じています。

河村 「一人ひとりが主役」ということを考えると、一人ひとりが考えるための材料として全社員にプロセスを含めて未確定の情報でも出していくべきではないか。一方で、周囲への影響が大きく慎重な議論が必要なものも多い中で、十分な共有・納得がないままで情報を出すことのリスクもある。このはざまの中で、情報共有の仕方、プロセスの作り方を今も常に模索しながら進めています。

海津 多くの会社が「中期計画書」というマテリアルを作ることをゴールに置きながら、スケジュールを組んでいるように見えます。御社の場合は、最終的に「教室の指導者や顧客とどんなコミュニケーションをして何を進めていくか」にゴールを置いて、そこから逆算して、今どこにいるかを見ているように感じました。

 形だけではなく、自分たちがやったことが最終地点につながるという道の流れが見えること自体が、一人ひとりの動機付けの1つの要素になると思います。