
アサヒグループホールディングスは「日経SDGs経営大賞」を受賞するなど、事業活動を通じた社会・環境価値と経済価値の創出を目指すサステナビリティ経営の取り組みが高く評価されている。
SDGs(持続可能な開発目標)やステークホルダー資本主義の大きな流れが押し寄せる中、企業は小手先の対応ではなく、抜本的な成長モデルの変革を迫られている。長期ビジョンとしてのサステナビリティを事業活動の前提として全社戦略にあらかじめ組み込み、いかにこの変革を成し遂げるべきか。アサヒグループホールディングスでサステナビリティ推進組織を統括する近藤佳代子氏と、アクセンチュアのサステナビリティリードの海老原城一氏、同社マネジャーの戸沼光太郎氏が縦横に語り合った。
政府より2年余り前に「カーボンゼロ」を宣言
海老原 サステナビリティへの取り組みが世界各国で進む中、とりわけ企業にとって緊急度の高いのが脱炭素化です。2020年10月、当時の菅義偉首相は所信表明演説において、「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、その後2021年4月には「2030年度の温室効果ガス排出46%削減」が表明されました。以降、日本企業での取り組みが加速しています。
アサヒグループホールディングス(アサヒGHD)はこの演説に先立つこと2年余りも前、2050年にCO2排出量ゼロを目指す中長期目標「アサヒカーボンゼロ」を発表されていますね。
近藤 私たちは、水や農産物など「自然の恵み」を享受して事業活動を行っており、「自然の恵み」なくしては、事業を継続することはできません。また、それを次世代に引き継ぐ責任があると考えております。世界的な温室効果ガスの増加による気候変動は、将来に向けて「自然の恵み」を損なうなど私たちのビジネスリスクにつながることを想定し、2030年、2050年の具体的な目標に落とし込みました。
2016年から2017年にかけて欧州事業の大型買収を行いましたが、欧州においてはサステナビリティへの意識が非常に高く、その影響も受けました。グローバルで事業を行うには、サステナビリティの取り組みは不可欠であること、また、徐々にESG(環境、社会、ガバナンス)投資が拡大していたことも背景にありました。
その後、2020年12月と2022年1月の2度にわたって中期目標を上方修正し、現在は2030年の目標を「スコープ1」と「スコープ2」で70%削減(2019年比)、「スコープ3」で30%削減(同)としています。過去の延長では達成できない高い目標なので、いちだんとアクセルを踏み込む必要があると考えています。
*スコープ1:自社による直接排出、スコープ2:電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出、スコープ3:スコープ1、スコープ2以外のすべての間接排出。
戸沼 2018年4月にアサヒカーボンゼロを発表した当時、社内ではどのように受け止められていたのでしょうか。

アサヒグループホールディングス
Senior Officer
Head of Sustainability
1991年アサヒ飲料入社。横浜、本社管轄の営業部門で卸、量販、新規開拓などの業務に携わる。2000年から2015年まで(2年間の育児休暇取得)調達部門で原材料の購買などの業務に従事。その後、経営企画部、コーポレートコミュニケーション部在籍中にESG(環境、社会、ガバナンス)、サステナビリティに関する業務に従事。2019年4月より、現部署にて、サステナビリティと経営の統合に向けて、グループ全体のサステナビリティ推進を統括する責任者を務める。
近藤 カーボンニュートラルについて社内で議論を始めた当初は、まだ、国内においては、現在ほど脱炭素と言われている時期ではなかったと思います。社内でも多様な意見がありましたが、当時の社長だった小路明善(現 取締役会長兼取締役会議長)や他の役員らの意志は固く、50年カーボンニュートラルの目標が決まりました。
繰り返しになりますが、私たちアサヒグループは「自然の恵み」を享受して事業を営んでおり、豊かな自然を後世につないでいくために、限りある自然を守ることは不可欠です。たとえば、気候変動によってビールの原料である大麦や水資源を調達、利用できなくなれば、当社は事業を続けることができません。社会の持続性と事業の持続性を考えれば、カーボンゼロという、当時、野心的な目標を掲げたことは自然な成り行きだったかと思います。
海老原 企業の社会課題への取り組みを振り返ってみると、これまで3段階で推移してきました。レベル1は、CSR(企業の社会的責任)のように本業とは別の部分で社会に貢献する段階。レベル2は、ESGです。日本で言うとGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が国連責任投資原則(PRI)に署名した後、2017年、2018年頃からESG経営に真剣に取り組む企業が増えました。レベル2では現状把握と情報開示に関する取り組みが中心となっています。
そして、レベル3は世界的なSDGs(持続可能な開発目標)への対応です。気候変動は当然重要ですが、人権、インクルージョン・アンド・ダイバーシティ、資源問題などSDGsが掲げるあらゆる要請に応じ、社会課題の解決をビジネスの中核とすること、つまり、社会価値と経済価値の両立が求められます。
アクセンチュアは、お客様がサステナビリティ時代に向けた転換を果たし、責任ある企業(Responsible Company)として成功できるようご支援するとともに、我々自身、責任ある一企業市民(Responsible Citizen)としての責務を日々の業務の中で果たしていくことを目指しています。
多くの企業がサステナビリティの重要性を認識しつつあるものの、たとえばCO2を始めとする温室効果ガス削減目標にしても、「多額の投資を本当に回収できるのか」「喫緊の課題はほかにもたくさんある」など、腹落ちしていないケースもあるようです。
そうした中、気候変動への対応はもちろん、「責任ある飲酒」や人権問題などを含めて広範な社会課題を事業活動の中で解決するために、サステナビリティを経営の根幹に据えているアサヒGHDは、稀有な企業の一つであり、それが「日経SDGs経営大賞」(2021年)の受賞といった高い評価につながっているのだと思います。