自社単独ではなく、パートナーシップで高い目標を達成する

海老原 サステナビリティ目標は、総論賛成・各論反対になりがちです。たとえば、「2030年にCO2排出量を30%削減する」という全社目標に賛成していても、各事業部門がその目標に向かって今年は何をやるのか、3年後、5年後にどこまで進めるのかという具体的なシナリオに落とし込む段階で、各論反対が噴出します。そこはやはり、決意を持って進めるリーダーと、全社に浸透させる仕組みが不可欠です。

近藤 当社の場合は、CEOの勝木がサステナビリティ目標に強くコミットし、リーダーシップを発揮していますので、グループ全体で横展開を進めやすいのはアドバンテージだと思います。同時に、サステナビリティ部門の責任者である私には、大きなプレッシャーなのですが(笑)。

 あとは、サステナビリティ推進体制において、実行レベルのタスクフォースを設置しています。私たち本社と各地域において、目標達成に向けて、具体的なロードマップに落としこみ、定期的に課題を共有しながら、達成確度を上げています。

戸沼光太郎
アクセンチュア
ビジネス コンサルティング本部 マネジャー

大学在学中に起業し、卒業後総合商社へ入社。国内/海外営業部・企画部を経て、トルコ事業会社に4年間駐在した後、アクセンチュア ストラテジー&コンサルティング本部へ参画。2040年経営ビジョン策定、全社トランスフォーメーション、サステナビリティ中期経営戦略策定などの上流領域から、デジタル通貨立ち上げ、DXにおける人工知能(AI)サービス構築など、幅広い分野のプロジェクトに参画。

戸沼 御社でサステナビリティ部門に外部の人材をヘッドハントしたり、社内公募で多様な人材を集めたりしているのを見ても、サステナビリティの推進力を強化しようというトップの熱意が伝わってきます。

海老原 日本企業の多くは脱炭素に取り組み始めたところであり、スコープ1とスコープ2の排出量削減や、スコープ3の可視化が主要課題となっていますが、排出量の多くはスコープ3が占めており、取り組みを加速する必要があります。

 食品・飲料メーカーで言えば、原材料を生産する農業・漁業・畜産、パッケージを生産する素材メーカー、販売する商品の輸送などがスコープ3に入ってきます。この段階に来ると一企業だけで解決できる問題ではなくなり、業界レベルでの取り組みや業界を超えた他社との協働が欠かせません。

 御社はすでに同業他社との共同配送や、プラスチック再資源化のための業界横断の共同出資会社への参画などを行っておられますが、他社との協働についてはどうお考えですか。

近藤 おっしゃる通り、環境、社会課題の解決に向けては、業界内、あるいは業界の垣根を超えた協働は不可欠であると考えています。私たち1社で課題解決に向けて取り組むよりも、他社との協働によって、いっそう取り組みを加速でき、投資面においても効率的に働くと思います。

 2021年にサステナビリティ戦略を再構築し、あらためて大きな柱の一つとしてステークホルダーとの共創の強化を盛り込みました。各エリアにおいては、さまざまなステークホルダーと共創しながら具体的な取り組みを行っておりますが、中長期的な研究テーマに取り組むアサヒクオリティーアンドイノベーションズの研究所でも、開発段階から他社との共創を強化しています。

 今後もグループ全体で、いっそう共創を意識して業界内外にわたる協働の機会を増やしていきたいと思います。

海老原 もとよりSDGsには17番目に「パートナーシップで目標を達成しよう」という目標が入っています。その実現には、高い目標を設定し、それを多くのパートナーを巻き込んで達成できるようにするアレンジャーも重要だと考えています。

 自社だけでやろうと考えず、企業群として高い目標を達成することを視野に入れておくことが重要です。

サステナビリティ部門がなくなる未来

海老原 最後に、近藤さんがいま優先課題だと考えておられる点について、お聞かせください。

近藤 エシカル消費の視点を長期の経営目標にどう組み込むかという点と、それに関連してバリューチェーン全体で人権問題にどう取り組むかということですね。

 特に、グループのサプライチェーンネットワークはグローバルに広がっていますので、細部にわたって人権リスクを把握するのは容易ではありません。第三者の視点やノウハウを借りて、事業活動に伴う人権侵害のリスクを洗い出す「人権デューディリジェンス」も始めていますが、それに留まらず、バリューチェーン全体でビジネスと人権をしっかり両立させる仕組みを構築していくことは大きな課題だと考えています。

 それと、あくまでも個人的な意見ですが、究極の目標は、現体制のサステナビリティ部門をなくす、いわゆる発展的な解消をすることです。最終的に事業とサステナビリティが完全に一体化しているのがあるべき姿で、そうなれば、サステナビリティ推進を専門とする組織は必要なくなります。「その前に君がやるべきことは山ほどあるだろう」と社内で叱られそうですが(笑)。

海老原 サステナビリティ部門をなくすというのは、非常に理にかなった目標だと思います。アクセンチュアにも以前、デジタル部門がありましたが、いまや何をやるにもデジタルは当たり前になったので解消しました。

 日本企業がこれから目指すのは先ほども述べた通り、ネクストデジタルとしてのサステナビリティであり、グリーン・トランスフォーメーション(GX)です。この視点がすべての事業に標準装備される段階に至れば、近藤さんがおっしゃるようにサステナビリティの専門組織は必要なくなると思います。

 サステナビリティやステークホルダー資本主義といった世界的な大潮流は、企業に成長モデルの転換を迫っています。そのため、社会価値と経済価値を同時に高めていく変革が必要になってくるわけですが、それを実現するには、社会・環境のサステナビリティはもちろん、投資家が求めるESG、顧客の体験価値、従業員の人財価値、組織のインクルージョン・アンド・ダイバーシティ、それらの原動力となるイノベーション創出力など、すべてを高める経営に取り組まなくてはなりません。

 アクセンチュアではこうした全方位経営を「360°Value」と呼んでおり、我々が持つリソースとケイパビリティ(組織能力)を結集して、戦略策定から実行までエンド・トゥ・エンドでお客様を支援する体制を整えています。その際、アクセンチュアの重要なリソースの一つであるお客様ネットワークを活かして、あるお客様の課題を別のお客様の技術で解決するといった支援も可能です。

 2030年、2050年という長期ビジョンに向けた企業同士のパートナーシップをアレンジし、そのハブとなることで、ともに変革を達成していきたいと考えています。

●参考情報

アサヒグループホールディングスのサステナビリティ
https://www.asahigroup-holdings.com/csr/

アサヒグループホールディングスの統合報告書/環境報告書
https://www.asahigroup-holdings.com/ir/library/annual.html

アクセンチュア サステナビリティサービス
https://www.accenture.com/jp-ja/services/sustainability-index