
「データを活用した新たな成長戦略」「データドリブン経営」の取り組みは進んでいるのか? 経営者がそう問われた時、自信をもって「進んでいる」と答えられる経営者はどれだけいるだろうか。多くの企業は、真の意味で自社が目指す経営の実現に寄与するデータ活用へと至っていないのが現実だ。そのような中、社外のオープンデータも活用した科学的な視点に基づく経営戦略の実践への注目が高まっている。本論考では、現在の日本企業が抱えるデータ活用の課題を整理しながら、データドリブントランスフォーメーション(DDX)のアプローチがもたらす価値について紹介する。
データ活用を促進するにあたって日本企業が突き当たる「壁」

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部
AIグループ
マネジング・ディレクター
秦:現在、多くの日本企業がデータを活用した競争力の強化と新たな市場開拓を、最優先の経営課題に掲げています。また、2020年の春に発生したCOVID-19によるパンデミックは、感染者数や感染経路などに関する膨大なデータを収集・分析し、具体的な施策へ活かすプロセスの重要性を、企業のみならず社会全体があらためて認識する契機となりました。
一方で日本の経営者の皆様からは、すでにデータ活用には取り組んでいるが、それがビジネスの具体的な成果創出に結びついていないという悩みも多く聞かれます。
アクセンチュアが日本を含む世界12カ国、16の業界にわたる企業の経営幹部1,500人を対象に行った調査「AI: Built to Scale(ビジネス全体でAIを活用する)」では、「これからの成長目標の達成にはAIの積極的な活用が不可欠である」という回答(約8割)とほぼ同じ割合で、「組織におけるAIの浸透が思ったように進んでいない」という声が寄せられました。
この結果からも、多くの経営者がデータ活用の重要性を認識していながら、データ活用の取り組みをビジネスの成果に結びつけることができてないギャップに悩まされている現状が伝わってきます。
では、日本企業は現在、どのような点でデータ活用の壁にぶつかっているのでしょうか。
アクセンチュアでは、企業のデータ活用における障壁を「DELTA(Data、Enterprise、Leadership、Target、Analyst)」というフレームワークを用いて、5つの要素に分類しています(図表1)。この中で特に重要となるのが、データ、エンタープライズ、リーダーシップの3点です。
日本企業の多くがデータ活用から具体的な成果を生み出せていないのは、組織全体での活用を前提としたデータ統合、分析結果を意思決定のプロセスに反映するための組織としての仕組み、これらのデータ活用を牽引するリーダーシップの欠如が要因になっていると考えられます。

図表1:日本企業がDDXで直面する5つの壁
DELTAのフレームワークから浮かび上がってくる課題を解消するために、アクセンチュアは「データドリブントランスフォーメーション(DDX)」というアプローチを提唱しています。このアプローチの特徴は、「戦略の立案から最終的な成果の創出に至るすべてのプロセスにデータが介在すること」と「目標を達成するためにAIやデータサイエンスを積極的に活用すること」の2点にあります。
これまで日本企業における多くの経営判断は、経営者、事業リーダー、機能リーダー自身の経験や勘に頼るところが多く、企業の事業範囲や市場範囲が拡大し、複雑になるにつれて精度が低下してしまう懸念がありました。DDXでは、ここにデータという客観的なエビデンスを組み込むことで、「経営を科学する」アプローチを実現しました。