モノ余りの状況や溢れる情報などで顧客のニーズは細分化され、これまで小売業が提供してきた一括りの価値では顧客のニーズに対応できなくなっている。カインズは個々の顧客ニーズに合わせた価値を提供できる組織づくりをすべく、顧客セグメンテーションを再構築し直し、2018年3月、創業以来の大組織改革を行なった。その実現のカギとなるDX(デジタルトランスフォーメーション)。アプリ「Find in CAINZ」を投入するなど、新たな挑戦が始まる中、カインズの高家正行社長に、これまでの歩みと成果を伺った。
モノ余り、モノ自身も成熟し
溢れる情報で無頓着化する顧客
石川 総務省が出している日本の年間消費額を元に、世帯構成や人口分布の変化、これまでのトレンドを踏まえ2030年の消費額をアクセンチュアが予測した分析がありますが、耐久消費財の家具などのマーケットは現在の3分の1程度に縮小する結果となりました。
まず、理由として、モノが余っていることが挙げられます。加えてモノ自体が成熟しており、どれを買っても顧客の満足度は80点を超えています。どれを買っても差がほとんど見られません。
一方で、モノに関する情報は次々と提供される。基本的にはモノが余って成熟しているところに、モノに関する情報に消費者は疲れてしまい、無頓着化、無関心化してきているといえます。
我々がグローバルで実施している消費者調査によると、日本では、「モノを買う前に比較検討しますか?」という問いに、「しない」と答えた人が6割ほどいます。自分が購入しているモノにさえ興味がない。小売業にとっては厳しい環境ですが、どのように捉えられていますか?

代表取締役社長
高家 正行
1985年慶應義塾大学経済学部卒業、三井銀行(現三井住友銀行)入行。1999年A.T.カーニー入社、2004年株式会社ミスミ(現株式会社ミスミグループ本社)入社、2008年~13年ミスミグループ本社 代表取締役社長。2016年株式会社カインズ入社、取締役(非常勤)就任、2017年取締役副社長就任、株式会社大都社外取締役就任。2019年より現職。
高家 確かに全体の傾向はそうですが、もう少し細分化して見ないといけないと思っています。日本の小売業は約140兆円の市場。少子化、高齢化等に伴い、いわゆる消費財市場は日本の人口に応じて減っていくと言われています。
一方で、「困ったときに必要なモノやサービス」や「(自分だけの)こだわりのモノ」などを考えた場合、すべてのマーケットが縮小していくかというと、必ずしもそうではない。「こだわりのモノ」を買いたいニーズはむしろ高まり、それは従来のマス・プロダクションでは満足できなくなってくると思います。
マーケットの縮小というよりも、サプライヤーと消費者とのギャップが大きくなってきているのかな、と思います。