顧客接点の主権を
リアルな小売業が取り戻す

石川 カインズに求める価値が異なる3つのグループの顧客がいて、それぞれの期待に答えていくために、3つのビジネスモデルを1つの会社として持つ。難しいチャレンジですね。

 その中で、自分たち小売業の強みだと思っていた「消費者との接点」に、従来の小売業とは全く違う強みを活かして、アマゾンを代表とするeコマースのプレーヤーが参入して来ました。

高家 これまでのリアルな小売業は、小さな店でも、お客さまへ「まいど!」と声をかけて、「奥さん、昨日はお魚だったから、今日はお肉を買ったらどう?」とか、「今日はおいしい桃が入っているから、どう?」とか、自然にマーケティングをやっていたわけです。

 しかし、それができるのは、自分のお店の周り3キロ程度の範囲のお客さまであり、しかも自分のお店に入って来たお客さまが対象でした。

 そこにECが出てきて、距離の概念がなくなり、かつ、どこにいてもお客さまの行動がわかるようになってきたのです。お店に行って何を買っているとか、何を選んでいるなど狭い空間の行動だけでなく、「朝から晩まで、どこを見て、何をして」とわかるようになってきたことで、顧客接点の主権をECのプレーヤーに奪われつつあります。それに加えて、お客さまとお客さまのC2C(Consumer to Consumer)やD2C(Direct to Consumer)、シェアリング、またはリサイクルのような従来のバリューチェーンとは違う動きも出てきています。これがいま大きな変化点となり、リアルな小売業は、どのように顧客との接点を作るかということが改めて問われていると思います。

 リアルな小売業にとって重要なのは、ECやオムニチャネル、ユニファイドコマースなど、言葉は色々ありますが、要は「お客さま1人ひとりに合った商品の提案・提供」だと思います。

アプリ 「Find in CAINZ」で
お客さまのストレスフリーを実現する

石川 その仕掛けとして、テクノロジーが非常に重要になってくると思います。カインズのデジタル戦略として、中期経営計画で目標を掲げました。

高家 デジタルはあくまでも道具。DX(デジタルトランスフォーメーション)といっても、結局、それで何を実現するのかが大事です。リアル店舗の強みとテクノロジーを掛け合わせて、3つの目的を持ってデジタルを活用しようと考えています。

 第1の目的は「ストレスフリー」です。

 お店でお客さまから聞かれる質問の8割が「この商品はどこにあるの?」です。

 実はこの質問にはいくつかの真意があるんです。買いたいものは決まっているけど、広い店内の、どこの通路のどの棚にあるのかわからない。そういうお客さまには「この通路のこの棚にあります」とお答えする。

 一方、たとえば壁紙を張り替えたいお客さま。ホームセンターに行けば壁紙はあるだろうと思って買いに来たけど、張り替えには糊(のり)も必要、糊を塗る刷毛(はけ)も必要。でも、「どんな糊と刷毛がいいのかわからない」と。

「キッチンの壁ですか? それともリビングですか?」。場所によって適する壁紙は違います。もちろん、糊も違います。そこまでアドバイスをして初めて、お客さまは自分の欲しい商品にたどり着きます。

 今まではどうしていたかというと、カインズには10万から15万くらいのSKU(Stock Keeping Unit:最小管理単位)があるのですが、店舗のメンバーは、できるだけその配置を頭に入れて、「この商品はここにあります」と、すぐに答えられるようにしていた。そして、自分の担当エリアの商品の機能や使い方などの知識を一生懸命覚えていた。でも、「それってデジタルでサポートできるよね」と。テクノロジーで「お客さまの煩わしさやストレスを解消し、お客さまに快適な買い物をしていただく」という思いから、第一段階として、商品を入力すればすぐに店内のどこにあるかわかる、その店になくても近隣のお店にある在庫を示すという機能を持ったアプリを開発しました。

「Find in CAINZ」と名付けたこのアプリは、実験が終わり、いよいよこれから全店展開を始めるところです。