「食」に対するニーズの変化を踏まえたデータ活用と組織改革

宮尾 大志
アクセンチュア 製造・流通本部
消費財・サービスグループ日本統括
マネジング・ディレクター

宮尾:データ活用による組織改革、アナリティクス人材の育成、ひいてはイノベーションの創出が求められている業界の例として、食品業界を取り巻く環境変化と企業の取り組みについて見ていきたいと思います。「食」に対する消費者/生活者や社会のニーズは、特にこの数年で大きく変化しており、DDXのアプローチを用いたデータドリブン経営が、以前にも増して重要となっています。

 現在、食品業界では3つの大きな変化が起こっています(図表3)。これまで食べるということは多くの消費者/生活者にとって、日々の生活の中で健康を維持するための栄養補給が主眼となっていました。しかし現在の日本では、食の嗜好にとどまらず、食という行為に付随する消費活動や意識にも大きな変化が生まれています。

 1つめの変化として挙げられるのが、「レスポンシビリティが消費活動の中心」になってきていることです。消費者/生活者は食を提供する企業に対して、コンプライアンスや社会的モラルの遵守、トレーサビリティの観点での「食の安心・安全」、食物の生産に伴う環境負荷の低減、フェアトレード(公正な貿易) など、これまでの以上の透明性や公明正大さを求めるようになっています。

 特にその傾向が強いZ世代、Y世代はすでに人口の過半数を占めており、10年後には全体の7割に達することが見込まれます。

 2つめの変化は、「価値観・こだわりが食のスタイルに直結している」ことです。食を提供する企業のレスポンシビリティとも関連して、食の安全やエシカル消費(社会的倫理を踏まえた消費活動)の観点から、生産方法や農薬の使用状況など、生産者の理念やこだわりを知りたいと考える消費者/生活者が増えています。

 食品需給研究センターが実施した食に関する消費者/生活者の調査*1によると、買い物習慣のある5,667人の約9割が「おいしさに直接関わる情報を知りたい」、また約7割が「生産者の個人名を知りたい」と回答しています。

 消費者/生活者はこうした情報をもとに、インターネットを介して同じ意識を共有する消費者/生活者や生産者とダイレクトにつながり、インタラクティブなコミュニティを形成した上で、購入するかどうかの判断を行っています。

 3つめの変化は、「食を含むライフスタイルをデータレベルで捉える傾向の高まり」です。食を通じたパーソナルヘルスケアの実現など、目的に応じてデータレベルで食をとらえる機運が高まりつつあります。

「安くておいしければ満足」ではなく、体質や嗜好に合わせて糖質やカロリーを計算・管理する、塩分や中性脂肪の数値が高い食品を避けて食物繊維を積極的に摂取するといった、データに基づく食品選びの傾向が顕著になっています。5万人の消費者/生活者を対象に実施した食の多様性に関する調査*2においても、「栄養価」は「安全性」に次いでもっとも重視される項目となっています。

*1:出典=食品需給研究センター2006「食品の情報開示に対する消費者ニーズと行動に関わる調査」、onpamall.com
*2:出典=フードシステム研究第27巻4号 食事準備行動の多様性

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図表3:「食」における消費者/生活者の変化と企業に求められる取り組み