日本が取りうる道は、デファクトかデジュールか
ここまで述べてきた新しい競争ルールによる3極の争いの中で、日本企業が取りうる道はどこにあるのでしょうか。
まず、3極と同じ戦い方ができるのかを考えてみましょう。民主主義陣営に属する主要先進国の一つとして、中国の「覇権」型はオプションとしては除外せざるをえないでしょう。
では、デファクト路線はどうでしょうか。実は日本でも個別企業レベルで見てみると、デファクト路線を取っている企業は、ごく少ないながらもあります。その一つは、総合空調メーカーのダイキン工業です。
ダイキンは、エアコンと冷媒の両方をつくる唯一のメーカーで、地球温暖化への影響が少ない冷媒「R32」の特許を無償開放するとともに、各国政府に働きかけてエアコンの環境性能基準を引き上げています。R32を製造するメーカーとして、他社より高性能・低価格の商品でシェアを拡大し、業務用空調では世界トップになったのです。
また、村田製作所は、部品供給先であるアップルなどのデファクト企業との共同製品開発を通して、みずからも業界におけるデファクトのポジションを確立しました。先進的な顧客からのニーズを吸い上げ、材料から製品までの一貫生産体制により材料技術、基盤技術などを独自に開発することで、積層セラミックコンデンサーやセラミック発振子など複数の製品でトップシェアを誇っています。
次にデジュール路線ですが、これもいくつか例があります。中外製薬はスイスのメガファーマ(世界製薬大手)、ロシュとの戦略提携によって圧倒的な成長を達成しました。2001年度に1691億円だった中外製薬の売上高は2002年の戦略提携後、いっきに成長を加速、2021年度は9998億円となりました。
資本関係上はロシュの子会社ですが、中外製薬は経営の独立性を維持しており、ロシュの人材や設備、海外販売網、資金力を活かしつつ、自社は革新的な新薬の開発に集中しています。これによって高い創薬力という強みを発揮し、国内製薬会社では時価総額トップに立っており、今後はロシュグループの中において新薬創出をリードしていく存在になるものと推察されます。
一方、カネカは、欧州のデジュールの中で勝ち抜く戦略を取っています。2017年、同社が開発した生分解プラスチックが海水中で生分解するとの認証を、ベルギーに本社を置く国際的な認証機関VINCOTTEから取得しました。VINCOTTEはバイオプラスチックの採用を進める欧州で最も認知されている認証機関であり、その後カネカは、生分解性プラスチックを年間1000トン生産することに世界で初めて成功。2019年には生産能力を5倍に引き上げました。
先ほどデファクト路線で紹介したダイキンは、コア技術の一つであるヒートポンプについては、EUにおけるルール形成に力を注いでいます。積極的な情報提供や政策提言によってヒートポンプによる熱エネルギーを再生可能エネルギーとして認定させることに成功しました。デファクトとデジュールの両面作戦で、シェア拡大を図っているわけです。
「共感」を活かした第4の道
このように日本企業でもデファクト、デジュールの戦い方を行っている企業は存在しますが、同時に日本の強みを活かした第4の道を模索する必要があるのではないでしょうか。
日本の特徴の一つは、長寿企業の多さです。ここに、「共感」を生む力という日本の強みを見出すことができます。「売り手よし、買い手よし、世間よし」の三方よしで知られるように、全方位経営の実践によって顧客や社会の共感を得ることで、長くビジネスを続けてきた企業が多いのです。
共感を生む背景には、ものづくりへのこだわり、日本の伝統や自社の社風など文化へのこだわり、そして三方よしに象徴される社会正義へのこだわりがあります。しかし、このこだわりがビジネスをスケールさせるうえでの足かせになってきた面もあります。
たとえば、ものづくりにこだわるがゆえにオーバースペックになりがちだったり、文化にこだわるために徒弟制度的な暗黙知の世界から脱することができなかったり、社会正義へのこだわりが強すぎてお金儲けに淡泊だったりすることが、往々にして起きてしまうのです。
しかし、グローバルでの新たな競争ルールを視野に入れながら、これまで実践してきた全方位経営を進化させることができれば、日本的な成長モデルを描けるはずです。その可能性を示している企業をいくつか例示しましょう。