一方、ロシュのパーパスは「患者さんの明日のために私たちが今日すべきことがある」。この言葉の実現に向け、コアである製薬事業にとどまらず、検査・診断ビジネス、医療データビジネスに事業ドメインを広げました。

 ユニリーバと大きく異なるのは、新たな事業ドメインに進出するため、M&Aによって足りないケイパビリティ(実行力)の補完を積極的に進めていることです(図3)。その結果、非製薬事業は約10年で1.4兆円を上回る売上規模にまで成長し、パーパスに賛同する企業が同社のエコシステムに続々と参画しています。

 その結果、巨大プレイヤー、GEヘルスケア(統合型デジタル診断プラットフォーム開発で提携)や、テンセント(インターネットとヘルスケアの融合を目指した戦略提携)ともタッグを組み、広範なエコシステムを築いています。新たに参入した分野でトッププレイヤーと連携するところまでポジションを引き上げた点は注目に値するでしょう。

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出所:アクセンチュア

チームで未来を予想し
パーパスを再定義する

――パーパス・ドリブン企業へと転換するためには、どのような考え方、取り組みが必要になりますか。

石川 Why(なぜやるのか? 何を成し遂げたいのか?)、How(どのような変革をするか? どう実現するか?)、What(何をするか?)という観点から事業を分析すると、世の中の一般的な事業のスタートはWhatになります。例えば、市場拡大が見込まれるため、EV(電気自動車)事業に参入するといった例があげられます。そして次にHow、Whyという順番で考えていくのが、これまでの考え方です。

 しかし、パーパス・ドリブン企業は、最初に社会的価値や社会変革を捉えたパーパスを設定し、なぜそれをやるのか(Why)から考えます。次にそれをどう(How)実現するのかに進み、事業ドメインの再定義とビジネスモデルの転換を行います(図4)。前述したようにユニリーバは、「サステナビリティを暮らしの“当たり前”に」をパーパスに設定し、サーキュラー・エコノミー型のビジネスモデルに転換し、事業ドメインを再定義しています。こうした取り組みが必要だと思います。

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出所:アクセンチュア