
テクノロジー業界は長年、ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包摂)の推進で後れを取っている。もちろん社会的な問題もあるが、女性や非白人の視点が欠如しやすく、製品・サービスに深刻な欠陥をもたらす可能性もある。筆者は、コロナ禍でリモートワークが常態化した環境を活かして、本社の立地に縛られた採用を見直し、幅広い地域の多様な人材プールに接触すべきだと主張する。
よく知られていることだが、ハイテク業界は長きにわたり、ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包摂)の欠如という問題を抱えている。
業界内の同質性は表面的な問題ではなく、ハイテク企業を悩ませるもっと大きな問題の多くにおける、根本的な原因といってよい。正義と公平性に影響を及ぼし、ハイテク製品自体の深刻な欠陥にもつながる。
非白人への差別を助長する不公平な顔認識技術や、主に男性によって男性向けに設計され、女性に不快感をもたらしかねないVRヘッドセットなどを考えてみよう。これらは製品設計における視点の多様性が不十分な業界でつくられた数々の製品の、ごく一部の例にすぎない。
社会的な圧力が高まる中でハイテク業界は昨今、ダイバーシティの慢性的な欠如を埋めるべく、新たな措置を講じると約束している。
ハイテク企業は過去にも似たような約束を掲げてきたが、実行面でほとんど成果を挙げていない。この問題への取り組みに関して透明性が比較的高い、グーグルのケースを考えてみよう。2014~2018年にかけて、組織内で人口比率が不当に低いマイノリティに属する社員の割合は、ごくわずかしか増えていない。その間、最高ダイバーシティ責任者は2016年以降で交代が続き、現在は3人目である。
グーグルの2020年のダイバーシティ年次報告書では若干の向上が見られるが、バランスのよい構成比からは、いまだにほど遠い。黒人または黒人系混血と自認する社員は5.5%、ラテンアメリカ系またはその混血は6.6%、女性自認者は32.5%にとどまっている。
グーグルは特例ではなく、業界の同業他社も同じように偏った構成比だ。アマゾン・ドットコムとアップルについては、黒人およびラテンアメリカ系社員の割合が相対的に高い。両社の小売部門と倉庫部門で、これらのコミュニティに属する人の割合がより多いからだ。
しかしいま、コロナ禍とその影響で生じた働き方の変化によって、転機につながるかつてないチャンスが訪れている。
ダイバーシティの欠如を埋めるうえでの障害の一つは、ハイテク企業が地理的に極端に集中していることだ。これによって業界は、より広く散在する人材プールに接触して採用・維持する余地が制限される。
ベンチャー投資資金の75%はニューヨーク、カリフォルニア、マサチューセッツの3州のみに集中している。そして2005~2017年、技術集約的なイノベーション分野の成長は5つの大都市圏でのみ生じた。このうちニューヨーク、ボストン、サンフランシスコ、サンノゼの4都市は前述の3州にある。
ハイテク企業がこれら以外の地域にも人材募集の手を広げるとしても、新規採用者に遠方からの移住を受け入れてもらうのは難しい。マイノリティのコミュニティに属する人であれば、なおさらだ。地元には彼らを取り巻く人的ネットワークと支援システムが至る所にある。
サンフランシスコ・ベイエリアやボストンといった集積地では、ハイテク人材の集中によって生活費が高騰している。企業は採用者にベイエリアへの移住を受け入れてもらうのに苦労し、現在ハイテク企業で働く従業員の3分の2は、ベイエリアから離れることができるならばそうしたいと最近の調査で答えている。
業界の包摂性を本当に高めるには、ハイテク企業は立地に対する先入観を捨て、人材募集と組織編成の方法を変え、働き方に関する許容事項も改める必要がある。
企業がコロナ禍の時期に――そしてもしかすると恒久的に――リモートワークへと移行する中、ハイテク企業は現在の集積地から遠く離れた場所にいる人材向けに、採用・維持の戦略を立てておくべきだ(すでに策定中の企業は、その戦略をいっそう強化すべきである)。在宅勤務のトレンドがたとえ全面的に定着しなくても、現在のブームはマイノリティ層を採用・維持しダイバーシティの欠如を埋める格好の機会である。