
スタートアップであれ伝統企業であれ、マーケティングマネジャーは自社プロダクトの顧客を増やそうと、無料トライアルを通じて有料版への切り替えを狙うフリーミアムを活用することが多い。だが、筆者らによれば、無料トライアルが有料ユーザーへの転換につながる確率は低く、顧客化しても肝心の顧客価値は低いと指摘する。本稿では、マーケティングマネジャーが知るべき、無料トライアルの有効性について解説し、行動変容のきっかけとなる「シェアの威力」についても論じる。
無料が嫌いという人はいない。だからこそ、多くのスタートアップ企業もすでに高い知名度を誇るブランドも、無料トライアルを活用して顧客の注目を浴び、新しいプロダクトの訴求をしようとするのだろう。
しかし、無料トライアルを経験した顧客が必ず有料で使ってくれるようになるわけではない。仮に有料転換したとしても、無料トライアルで獲得した顧客はそうではない顧客に比べて、顧客価値がかなり低い。
問題は、自社ブランドの既存顧客にさらにお金を使ってもらうためではなく、新規顧客を獲得するために無料トライアルを活用するケースが多すぎる点にあることが、我々の最近の研究で示唆されている。これが本当なら、マーケターが最高の結果を出す無料キャンペーンを考えるうえで、我々の研究が助けになるだろう。
無料キャンペーンが成功する時
我々は、ある大手携帯電話会社の協力を得て、開発途上国で調査を行った。その開発途上国は先進国と比べて、モバイルデータ通信の平均使用量が非常に少ない。
携帯電話会社のマーケティングチームは、60MBのモバイルデータ(ウェブ経由で低解像度の動画ストリーミングをおよそ1時間視聴できるデータ量)を、自社サービス加入者のうち6万人に無料で提供するキャンペーンを実施した。
キャンペーン対象者は、スマートフォンとショートメッセージサービス(SMS)を利用している加入者の中から、無作為に選出した。ただし、モバイルデータ通信の使用量に関しては、ノンユーザーやヘビーユーザーを含むさまざまなレベルのユーザーが含まれるようにした。
我々の予想は、モバイルデータ通信のノンユーザーが無料トライアルを利用する傾向が強く、キャンペーン終了後もノンユーザーによる使用量が増加するというものだった。
ところが意外なことに、もともと使用量の少ない顧客のほとんどは無料トライアルを使おうとせず、このキャンペーンではそうした顧客の使用量を増やすきっかけにはならなかった。一方、ふだんから大量のデータ通信を使っている顧客はこの無料トライアルを利用したものの、キャンペーン期間中のデータ使用量に変動はなかった。
そして3つ目の顧客グループ、すなわち定期的に中程度から多めのデータ通信を使っている人々は、無料トライアルを利用する傾向が最も強く、キャンペーン終了後に使用量が増加したことも明らかになった。
最後に、我々は「ピア効果」が重要であることも発見した。無料トライアルを、ピア(知り合いの既存ユーザー)に転送できるオプションを与えられた人々は、その無料トライアルを受ける傾向が強かった。
我々の研究は、「経験」を提供するプロダクトの場合、無料トライアルキャンペーンは中程度から高頻度に利用する既存顧客をターゲットにすべきであることを裏付けている。たとえば、旅行や映画、新しいソフトウェアなど、実際に経験して初めて価値がわかるプロダクトだ。
このようなタイプの製品やサービスでは、まったく利用経験のない顧客より、多少でも利用経験のある顧客のほうが、無料トライアルキャンペーンに好反応を示すことが、我々の研究から明らかになった。